毛利元就 | ナノ


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一目惚れをした、というのがあれが駒になった理由であって、惚れた相手とはもちろん、この国だった。



(あったかくて)



日輪の加護を受けているのだから確かに天候は良い。



(やわらかい色がたくさんあって)



自然のことを言っているのか。



(いい声がして)



波の音のことだろう。



(いい匂いもする)



潮は時折異国の見知らぬ匂いを運んでくる。



(まるできれいなお姉さんみたい)



……それだけはよく理解が出来なかったが、ともかくずいぶんな心酔具合は伝わった。
目の前でそれの持つ槍捌きを見た故に腕への疑いはいらないだろうと判断してのことだった。

そのようなやり取りがあった日からというもの、敵へ仕掛けた罠の囮程度にはなるだろうと何度か戦や奇襲に使ってみたが。


(元就様ただいまー!)

(……まだ生きていたか)



使い捨てで終わる筈が、これの身体能力が高いのか悪運が強いのかどんな罠に敵兵もろとも巻き込んでも軽い傷だけで帰ってくる。
しかも破顔の笑みを携えて。

そうこうしている内にすっかり戦の一番槍と罠の囮役という役所が何となく出来てしまい。



「…ああして暇を持て余す筈よ」



戦のない日はこちらとしても当人にさせることがなくなってしまった。
腕は立つので一揆の解決などには使えても、あの性分では密偵も難しいだろう。

これは早急にどこかへ入れてしまおうと筆を取り、目に付いた箇所の隊へ名前を書こうとした。
が。





「………あれの名は何だ」



初歩的な欠落だった。


 

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