毛利元就 | ナノ


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元就様の後ろをついて行くと、いつもの海岸に出た。
頭上には日輪、正面には安芸の大鳥居が海の中に静かにそびえながらこちらを見つめている。
左手側には御堂、後ろには毛利の屋敷があって、元就様はこの範囲よりも外に出ることがほとんど無い。

本当は元就様の部屋から一面の海を臨む際、真正面にこの大鳥居が来るように屋敷が作られたらしい。
私にとってはこの世の美しい物を全て詰め込んだ場所だけれど、きっと元就様にとってもそうなのだろうと思った。



「日輪に祈りを捧ぐ時間よ。邪魔立てする者は全て消せ」

「はい」



いつものようにそう答えると、ちょうど真上に差し掛かった日輪を仰ぎ、目を閉じた。
そうすると、もう何も聞こえなくなった。
引いては返す波の音だけが自分達の周りにあった。

砦一つ向こうではあんなにも地獄絵図になっているのに。
ここはいつでも時を止めた一枚の絵のようだ。
決して汚されない。
何も変わることがない。

元就様から真っ直ぐ伸びる長い影の上に座り込むと、ちょうど日除けになって塩梅が良かった。
そのまま波の音を聞いているうちに何だか眠たくなってきて、我慢するという考えも全然なかったので、そのまま眠った。



安芸の海が好きだった。
色んな色が混ざっていて、どこにどんな魚がいるんだろう、と思えた。
日差しの強さと風の冷たさが上手く合わさるから、いつも誰かに撫でられているような風が吹く。
だからいつでも眠たくなった。
まるで一人じゃないように思えたから。



どれくらい眠っていただろう。
誰かに名前を呼ばれた気がして、ぼんやり目を開けた。
開ける途中で、元就様の足元で眠っていた事を思い出し、バッと両手で頭を庇った。



「……何をしておる」

「……あれ?」



でも、輪刀は降ってこなかった。
ぱちくり目を開けると、元就様はいつものような呆れた目つきで私を見下ろしていた。



「元就様、呼んだ?」

「……呼ぶはずが無かろう」

「そっか」



ここに来てからというもの、元就様に暴力以外で起こされた事がないので、何だか気が抜けた。
ふと空を見上げれば少し太陽が傾いていて、割とゆっくり寝たことを知る。
今まで日輪を浴びていた元就様が、今はそれを背にしていることも。



「貴様はどこでも寝こけるな」

「うん、安芸はどこでも眠くなる。あったかくて、柔らかくて、いい匂いがするから」

「……そうか」



そこまで会話して、あれ、と思った。
元就様がその場所から動かない。
いつもは私が座り込んでいても倒れていても、気にせずさっさと歩いていくのに。
今はただこちらを見下ろしたまま立っていて、何だかまるで言葉を探している人みたいだった。





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