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「……全く粗末な頭よ。こうなれば我が独断で報酬を選ぶ。好物を片端から挙げるが良い」
「え、え、片端から?」
「そうだ、さっさと足りない頭を回せ。貴様の一番の好物は何だ」
輪刀をちらつかせながら迫る様は、さながら質問ではなく脅迫だった。
「えっと、あ、安芸!」
「やれるか。次は」
「つつ次は元就様!」
「っ、巫山戯るな、常識で物を言え。次は」
「次はーえっと……あ!柔らかくて暖かくて、いい匂いがする物!」
「……何だそれは、とんちか?」
眉間に皺を寄せ、ふいに輪刀を目の前から下ろす。
「とんちじゃないよ。昔から好きな物にはその三つが入ってたから……」
「何時からだ」
「いつ……?うーん、もう物心ついた時から好き、だと思う」
「今まではどのような物にそれらが含まれていた」
「えっと干し終わったお布団とか、安芸の温かい朝方とか……後は綺麗なお姉さんに多いかな?」
一体何を聞かれているのか分からなかったが、とにかく答えをひねり出した。
答えれば答えるほど元就が考え込むような仕草をするので、余計に答えに迷う。
「だからここに来るまでは他の国で遊郭の護衛とかしてたよ。お姉さんがたくさんいるから」
「その女達と何をする?」
「え、御伽噺を読んだり、膝枕してもらったり、一緒に遊んだり、とか」
「……嗚呼、成程な」
はあ、と考えを終えた元就が息を吐いた。
「あ、だから女中さんと遊ぶ日をもらえたら嬉しいかも」
「それでは報酬にならぬ」
「どうして?」
本気で分からないのか、という表情を全面に表してから。
「貴様が求めているのは母親であろう」
きっぱりと、そう告げた。
何も珍しくない、とでも言うように。
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