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その姿に何か違和感を感じながらも、ごめんなさい、と謝った。
そして向こうが口を開く前に、先に聞こうと思っていたことを切り出した。
「元就様は、御褒美はもらえないの?」
「……我が?」
「うん。私は一番槍と殿を頑張ったからだもんね。元就様は戦を頑張ったら、誰かから欲しい物もらえるの?」
あまりに考えたことがないので、一瞬何を聞かれたのか分からなかったが、そのうち理解した。
報酬の話か。
「頭が足りぬな。毛利が治めるこの国で、我に施す者があると思うか?」
「じゃあ私があげるー」
「……は?」
にぱっと笑うと、ごそごそと小袖の袂を探り、一つ差し出した。
何を出すかと思えば、それは大ぶりな二枚貝。
「朝見つけたんだ」
「…それは腐っているのではないか?」
「大丈夫大丈夫」
ほら、と上の貝殻を軽々と外して見せた。
もちろん出てくるのは見なれた貝の中身。
そこに一粒、白く輝くものが埋もれるように入っていて。
「ぶふっ!」
「元就様!?」
目の前で表情を変えずにむせた主君に、手鞠が一瞬怯む。
「げほっ…貴様、どこでそれを……」
「あ、えっと朝素潜りしてて……大丈夫?」
「くっ、しばし待て……」
何度か口元を隠して咳払いしてから、息を吐いて向き直る。
余程衝撃的だったみたいだ。
「……それは、アコヤガイか」
「うん、海女さんの真似してて見つけたんだ。綺麗だよね」
元就がそっとその小さな粒を指で持ち上げる。
元々白い表面が赤い夕日を受け、透き通るように輝いていた。
真珠は言われるまでも無く、この安芸にとって高価な産物の一つだ。
自分でさえも貝の中から見つかった物をその場で見るのは初めてのことだった。
「……ふん。貴様にしては、上々な代物よ」
「わーい」
「貝の中身はいい加減に捨てよ」
「あ、はい」
せい!と海の彼方へ宝石の入っていた入れ物を投げ捨てる。
珍しさからつい手元の真珠を見てしまう元就を見ると、何だか心が少し浮ついて不思議な気持ちだった。
「自分がもらったら嬉しい物をあげなさいってお姉さんが教えてくれたんだ。私は海が好きだから、海から出てきた物をあげようと思って」
この、指先に収まるほどの輝く粒の価値を、一体どれだけ知っているのか。
そんな事は恐らくどうでもいいのだろう。
しかし、これではあまりにも本末転倒だ。
結局手鞠には何も与えておらず、自分は家一軒建つほどの代物を受け取っているのだから。
その上、手に入れたいものも、心から欲しいものも無いと宣う。
それではまるで。
自分ではないか。
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