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まあまあ、と半兵衛が笑いながら間に入ったので、言及はそこで止まった。
「とにかく、招いてくれて嬉しいよ。無理を承知で会談を頼んだのだけど、聞き入れてもらえるなんてね」
「……天下の豊臣が何を言おうと、緩やかな脅迫にしか聞こえぬわ」
「考えすぎるのが君の悪い癖だよ、元就君。僕はあくまで招かれる側だ。ほら、手土産もある」
にっこりと外交用の笑顔で風呂敷を手渡してくる。
元就は目を細めてそれを受け取り、その形と重さを記憶すると。
「ふん、そうか。わざわざ済まぬな」
そう言って顔色も変えず、はるか後ろへ放り投げた。
のを手鞠が走っていって受け止めた。
「…………貴様」
「……あ、体が勝手に」
「……食すでないぞ」
「はい!」
後ろで半兵衛が声を殺して笑っているのが明らかに聞こえてきたので、もう一度その頭に輪刀を振り下ろした。
―――――……
それから一刻ほど経ち、屋敷での会談も終盤に差し掛かった。
「……本当に豊臣に降る気はないんだね?」
その言葉が半兵衛の口から出た時、ようやく終わりが見えた事に小さく息を吐く。
自分達はただ一つのこの命題のために、何の身にもならない世間話と、お互いの腹の探り合いを含めた近況報告を行っていたのだ。
「我は中国さえあれば良い。竹中、貴様は貴様で好きにせよ」
「そうは言ってもね、君は中々脅威なんだよ。この世で最も怖いのは、敵に優秀な頭脳がいる事だ」
貴様が怖いのは病であろう、と言うのは、無駄に神経を逆なでるので止めておいた。
「織田亡き今、もはや勢力を固める旨みも無かろう。我はどの国にもつかぬ。中国を侵す輩があれば、塵一つ残さず潰すがな」
「豊臣の元にいれば君の中国の安寧は保証されたようなものだろう?」
「ふん、時と共にうつろわぬ力なぞ無いわ。そんな物に頼らずとも我はこの知略で生き延びる。貴様は貴様の心配をしていろ」
「……ご忠告、痛み入るよ。君の答えは分かった。長居して済まなかったね」
今まで飲んでいたお茶を置き、立ち去る構えを見せる。
半兵衛が不意に辺りを見渡したので、何を探しているのかはすぐ見当がついた。
「あれはおらぬ。大方その辺りを彷徨いているのだろう」
「そう、残念だ。元就君とはまた違う毛色の子だったから興味深くてね」
どこで拾ったんだい?と聞かれたので、向こうから住み着いた、とだけ返した。
実質ここ最近の戦で戦果をあげているのはほとんど手鞠なので、なるべく情報は与えたくない。
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