毛利元就 | ナノ


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安芸の周辺と言われても、すこぶる範囲が広い。
そこを守れというのだから、まるで悪い冗談のようにしか聞こえなかった。
それでも一応頭を回転させ、他国から来る道が入ってくる東側へ向かってみた。



「山の出口、山の出口っと……あれかな?」



東側から来る客人は大体この山の出口からやってくる。
出口付近が見渡せる高い木に登り、ぐるりと辺りを見渡した。

探すまでもなく、肉眼で捉えられるほどすぐそこまで例の「客人」の御一行はやって来ていた。
山々の中に不自然な赤い旗が、少人数の兵たちの間で揺れている。
あれかあ、と呟いた手鞠の口がピタリと止まる。



「……馬に乗ってる?」



それはあまり推奨されないことだ。
東側には山が二つあるが、手前にある安芸側の山は手入れがあまりされておらず、道が悪い。
歩くのであれば問題ないが、馬で歩くとなると至難の技だ。
あれではいつか落馬するか、脚を取られた馬ごと倒れてしまうだろう。

どう知らせたものかと迷っているうち、向こうが段々と山を降ってこちらに近づいてきたので、手鞠も木の低い位置へ移る。
やはりその馬の足取りは安定しているとは言えない。
乗り手の腕がいいらしく、どうにか均衡を保っていたが、不安定な道のりに鬱憤が溜まったのか馬が大きく嘶いた。



「なっ…!」



興奮した馬が高く前足をはね上げ、乗っていた者の体が大きく後ろに浮き上がった。



「!」



手鞠は咄嗟に木から飛び降り、宙に舞っている手綱を引っ掴んだ。
着地と同時に強く手綱を引く。
跳ね除けようとこちらを見たその馬の目と自分の目を合わせて、力強く覗き込めば。
しん、と馬は抵抗をやめた。



「……おお、何という身のこなし」

「主、ご無事ですか!」



ううん、という小さな呻きが聞こえて顔を上げると、乗り手は辛うじて馬の背に跨ったままでいた。
振り落とされるのはどうにか回避できたようだ。



「……大丈夫だ、怪我はないよ」



そう言って顔にかかる髪を払い、体を起こした。



「……君が咄嗟に助けてくれたんだね、ありがとう。礼を言うよ」

「いいえ」

「その格好…元就君の所のだね。彼の兵に助けられる日が来るとは思わなかった」

「お姉さんが、客人?」



その透き通るような顔に問いかけると、周りにいた兵達が一瞬沸き立ったが、当人が手を挙げて制する。



「ふふっ、そう言われるのは久しぶりだ。元就君から何も聞いていないらしい」



微かに笑って、不思議な仮面をつけた端正なかんばせを軽く傾げて見せた。



「僕の名は竹中半兵衛。歴とした男だよ」





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