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「ちょう、そ」
「あの馬鹿野郎…!どこまで自分と部下をこけにしやがる!!」
ビリビリと空気が震えるほどの怒声だった。
すぐさま事を起こしそうな雰囲気に思わず背中の槍へ手が伸びたが、長宗我部は銛を握ったまましばらく顔を上げずにいた。
肩が上下するほどの荒い息を、それを上回る感情で押さえ込もうとしているようだった。
ここへは話をしに来ただけ。
その言葉を守ろうとしているのだ。
やがてゆっくりと銛を引き抜いた長宗我部の表情は怒りの色が薄まっていたが、もう前と同じような柔らかさはなかった。
「……あいつはそんな約束であんたを受け入れたんだな」
「…うん」
「そうか…よく分かったぜ」
そのまま踵を返して船の方に歩いていくと、その船の中から一人の兵が出てきて長宗我部に袋を手渡した。
おい、と呼んでから、空高くその袋をこちらへ放り投げる。
ちょうど自分の手元に落ちてきた。
「…約束は約束だ、受け取りな。あんた次第で考えようと思ったが……仕方がねえ」
そのまま長宗我部が船に乗ると、巨大な船はまた空高くに二発の花火を打ち上げ。
ゆっくりと厳島から離れ始めた。
船の中を上り、船頭へ姿を見せた長宗我部が、目を細めてこちらを見下ろしていた。
「……また来るぜ。次は本気であんたらを潰しに来る。それまでによく考えな」
そのまま船は面舵を切り、広い瀬戸内海へ漕ぎ出していく。
船の向きが変わったのですぐに船頭の長宗我部は見えなくなったが、船の姿が遥か遠くになるまで手鞠はその場に立ち尽くしていた。
よく考えな
最後の言葉が、また頭に染みを作っていった。
考えろ、考えろ、そう言われても。
生きてきて、何かをいっぺんでもちゃんと考えた事が果たしてあっただろうかと。
開けてはいけない箱を開けてしまったかのような苦さが喉の奥に引っかかっていた。
考えるとはどうやるのか、いつも何かを考えている元就に聞けば教えてくれるだろうかと、ふと思った。
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