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生きている所。
手鞠は頭の中でそう繰り返したが、よく分からず首を捻った。
元就が生きている所など、普段から見ている。
けれど、その答えでは間違っているのだろうとは分かった。
「国を守るのは俺達の役割だ。だがな、毛利はそれに縛られすぎてやがる」
「でも、私も安芸が好きだよ。元就様もきっとただ安芸が好きなんだよ」
「おう、分かるぜ。だからあんたも、息をするようにここを守れるだろ」
でもな、とまっすぐこちらを見て。
「毛利は安芸を守る事で息をしてやがる。そんな人間がこの先どうなるか、あんた考えたことがあるか?」
その時、ようやく少しだけ、長宗我部が何を言いたいのかが分かったような気がした。
恐らくこの人間も毛利と同じように、口数は多いが言葉は少ないのだ。
だが、それよりも頭の中にこびりついたのは。
考えたことがあるか?
だった。
答えないでいる手鞠から、尚も目線を外すこと無く、一歩近づいた。
「……あんたには、一つだけ聞きてえ事がある」
「な、に?」
「あんた、何で毛利の近くにいる」
これだけ身長差があるのに、ついに始めから今この時まで、長宗我部の態度は変わらなかった。
これだけ大きな身体をしているのに、頑なに会話以外の手段をとらなかった。
その姿に、考えろ、と言われているような気がして、なぜだったかを一生懸命思い出そうとしたけれど。
「安芸が好きだから」
結局、口が動くままに任せた。
「元就様は、安芸を守ってくれるから」
それを聞いた長宗我部が、いくらか時間をかけて言葉を噛み砕き、苦い顔をして飲み込んだ。
何かを吐き出してしまいそうなのを堪えているようにも見えた。
「……毛利にとっちゃ、安芸を守りたがるあんたは都合がいい。だから名前までくれてやったんだろうな」
「違うよ」
と話して、あ、と気づいた。
これはきっと余計なことだ。
望んでいた答えでなくても、どうにか自分を納得させようとしているこの相手に、聞かせてはいけない事だ。
気づいたがもう、考えた事を全て出してしまうこの口は続きをあっさりと言ってしまった。
「元就様が安芸に相応しくなくなったら、私が殺すって約束したの」
言葉が魚のように飛び出した瞬間、長宗我部がカッと目を見開き、足元に銛を力任せに叩きつけた。
先端が足場の木材を貫通し、その破片が辺りに舞い上がる。
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