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ぺったんぺったんぺったんぺったんぺったん
「ははは速い!手鞠!速い速い!」
手鞠に慣れが加わって自在に杵を動かせるようになった頃、突く間に餅に水を含ませる役目の橋之助は最悪の事態を覚悟で何とか手を出し続けていた。
「後生だ!
手ぇだけはつかないように本当に気をつけ……」
「かような手いくら潰そうと構わぬ、良い餅を作ることだけを考えよ」
「うらあああああ」
「悪かった!私が悪かったああ!!」
それから十分ほどつき続けるととてもおいしい餅ができました。
橋之助は色んな意味で死にました。
「元就様どうですかこれ」
「まあ及第点よ」
二回もついた結果に生まれた大量の餅を丸め、粉をかければ更に大量な丸餅が出来た。
しげしげと眺めているうちに女中に一つ手渡され、その心もとない柔らかさに一瞬落としそうになる。
「私つきたてとか食べたことない」
「やわらかいよー」
「そうなの?」
慎重に元就の食べ方をじっと見てから、かじりついてみた。
不意にそのまま餅を持っている手を口から離すと、みょんと餅も伸びる。
少し先まで手を伸ばしてみる。
餅も伸びる。
腕をいっぱいにまで伸ばしてみる。
餅も伸びる。
「!?」
「誰かこの阿呆を引き取らぬか」
収集のつかなくなった所を元就にはたかれて終わり、手ではなく口を動かすのだと女中に教えられた。
「おいしい!!」
「当然よ、我が国のもち米ぞ」
「安芸すごい!」
山のようにあるのでそれはそれは幸せそうにもぐもぐと食す。
味を付けるかと料理人が聞いているのも耳に入れず、食感を楽しみながら渡されるたび食べていく。
「料理人よ、突き手も生まれた事だ。明日も餅をつけ」
もぐもぐもぐもぐ
「し、しかし今までも何度も申しておりますが、今日作った分が残っておりますので……」
もぐもぐもぐもぐ
「大した量ではないであろう」
もぐもぐもぐもぐ
「いえまだあと十人前は……あれ?」
「ごちそうさまでした」
先程まで山のようにあった丸餅は、家臣達と(七割が)手鞠によってたいらげられていた。
「…異論はないな?」
「…はい…」
まずは餅米の入手から始めなければならなくなった料理長をよそに、残りの餅を堪能する二人だった。
「やはり餅はつきたてに限るな」
「はい」
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