毛利元就 | ナノ


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「いやさぁ!」



べったん、と小気味良い音が手鞠の振り下ろした杵の下から生まれた。
あれからすぐに餅つきを始めたが、突き手も用意していないため手鞠が突くことになった。

力はあるものの体躯が追いつかず、打つたび多少体が宙に跳ね上がる。



べったん、べったん



「そうそう、拍を乱さずにね」

「うん」



女中の手を借りてどうにか形にしている中、視界に大人しくつきあがるのを待っている元就の姿が目に入った。
砂浜をよく見られる場所ということで、滅多に主がいない元就の部屋を開け放している。

そんなとき視線が合って。





は や く し ろ





まさかの無言の催促が伝わってしまった。



「…もう少し早くつきまーす」

「?
分かったわ」



周りにも餅を待っている屋敷の人間がわらわらいるので、なるべく早めにつきおえた。
料理人がまとめて細かく千切るや否やもう光の速さで元就の目の前まで運ばれており、「好きな食べ物」がどの程度かを察することが出来る。



「元就様おいしい?」

「こしが足りぬな」

「はああぁあい」


すでに三つ目を食べながらその台詞かとは誰もつっこまず、再び杵を持ち上げたところで。



「…あ!橋之助、橋之助!」

「おお、そうだった」



本来の目的を思い出して叫ぶと、橋之助が裏から嘆願書を運んできた。
手鞠が元就を説得している間にその巻物は2巻に増えていた。



「元就様、橋之助がこれを渡したいって」

「下々の者からの請願内容をまとめてあります」

「いやに手際がいいな」

「うん、橋之助がこれを渡したいから元就様を外に出せって」

「!」



とっさに橋之助が手鞠の口を塞ぐも、元就自体は涼しい視線でほう、と呟いただけだった。



「それよりもさっさと続きをつかぬか」

「あ、そうそう。よーし」

「で、では私はこれにて…」


「合いの手はそやつにやらせよ」



一瞬体が硬直した本人とは裏腹に、易々と了承した手鞠が今までやっていた女中から水の入った桶を預かって持ってきた。



「もも元就様、若輩ながら手前は合いの手などやったことが…」

「よもや他人に仕事を与えた者が、与えられるのは望まぬとは言うまいな」

「う……」

「手鞠、餅は速さが物を言う。
肝に命じよ」

「はい!」

「ちょ、ちょ…っ!」


 

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