毛利元就 | ナノ


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――――――…



「……ようやく諦めたか」



目を通し終えた文を一所にまとめ、思い出したように元就が呟く。
今までどこから仕入れたのか元就の興味のありそうなものを悉く引きずり出され、ああまでしつこい人間もおるまい、とようやく大人しくなった扉を一瞥する。

そこには巨大な鉄の錠前が見えた。
南蛮由来の技術をそのまま持ち込んだので、外と内のどちらからでも開けられる。
外から鍵を使って開け、鍵ごと自分が中に入り内側から鍵をかければ、虫1匹入ることは出来ない。

そのため部屋は常に火を灯さなければならないほど薄暗いが、それも少し気に入っていた。
音も光もなく、人の気配も視線もない。
その方が相応しいと思ったのだ。

ところが。




ずっ…ずずっ…



外から再び何かを引きずる音が聞こえてきた。
まだ諦めていないことへ呆れるのと、引きずっているものの判別を同時に行う。



ずっ、ごと…ずっ、ごと…



二つの物、重いものと軽いもの。
木の擦れた音。
聞き覚えのある、そう、確か正月か祝い事の際に出す杵と臼の……



「…餅か」

「うわ早っ」



いきなり扉の向こうから声がしたものだから、相手はつい肩に担いでいた杵を落としかけた。
ついでに言うならまだ部屋の前を通過もしていないのにこちらが言い当てたので余計に驚いていた。



「何故そのような物を持ち出す」

「今日のお昼はお餅をつくから砂浜に持って来てくれって。元就様も食べ――」



言いかけた手鞠の耳に、突如がちんっと何かが外れる音が響いた。
内側から少しずつ扉が開かれ、一瞬身構えた手鞠を後目にさっさと部屋から元就が出てくる。

何事かと呆ける当人を見下ろし。



「何をしておる、さっさと道具をもってこい」

「あ、はい」



そのまますたすた砂浜の方へ歩き出す姿に、ああこれだったのかと合点がいった。



「……何をしておる、といっておるであろう」

「はいはいはいー」



 

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