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御堂は海の上に建っている。
浅い海底に竹で足場を組み、その上に小さな建物を建てたのだ。
潮が引いている時は丁寧に組まれた足場を見ることが出来るが、満ちている時は床の近くまで波が上がり、まるで海に浮いているように見えることがある。
造り自体は非常に簡素で、瓦の屋根以外はすべて木で出来ていた。
出入りする扉には取っ手がなく、無骨な鉄の錠前が取り付けられている。
(みどう?)
(そう、ここらの人は皆、御堂って呼ぶの)
ここに来たばかりの頃、洗濯を手伝った使用人が教えてくれた。
(本当は仏様を祀る小さな建物を御堂って言うんだけれど…元就様は日輪の化身との噂もあるし、まあ、皮肉よ)
(あそこで眠ってるの?)
(さあ……でも眠るにはさすがに寒いんじゃない)
御堂で夜を越してはいない。
と言うことは、生活に必要な物はあまり無いということだ。
「それなら時間が経てば出てくるんじゃないかなあー……」
とぽつりと呟いても意味は無い。
とにかく今は元就と接触する方法を考えなくては。
砂浜から続く、頼りない木の橋を渡って扉の前に辿り着いた。
「元就様ー」
とりあえず呼んでみる。
わかってはいたが、返事はない。
「……元就様ー!」
多少大声で叫んでみる。
やはり返事はない。
「も!と!な!り!様ー!」
かなりの絶叫で吠えてみた。
…返事はない。
「……ええー?」
正直今のは周りの海が波立つ程の大声だった。
辺りの漁師や屋敷の者達が何事かとこっちに注目しているのだから。
それでもうんともすんとも言わないということは、何かおかしい。
それでも今はその正体がわからなかったので、とりあえず再び扉の前へ戻ってきて。
「……くっ……」
固く閉ざされた扉を左右に押し広げた。
もちろんしっかりと閉じられた扉に指を入れる隙間などない。
手のひらに渾身の力をこめて、木枠を変形させかねない重量で引っ張る。
「あ、ちょっと隙間できた…!」
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