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「はー…本当におなごだなぁ」
「なんでこんなとこにいるんだ?」
「いや、槍持ってるぞ?見張りだろ?」
「娘っ子がこんなところ守るってのか?」
わらわらと降りてきたようにも思えたが、出てきたのは四五人ほどの男達。
どの人間も似た紫の服を着ていて、同じ国の者だと分かる。
その中で一際体の大きい存在が、穴が開くほどこちらを見つめていた。
「こんにちは」
「っお?おお、いい天気だな」
挨拶をしてみれば、やっぱりこの男が一番先に言葉を返す。
うん、間違いないと一人うなずいた。
「…お前、毛利のところの人間か?」
「うん。おにさんは?」
「おう、聞いて驚くなよ。このお兄さんはかの四国の総大将…鬼ヶ島の鬼たぁ俺のことよ!野郎共!俺の名はあぁ!」
「「「モ!ト!チ!カー!」」」
「えいやー」
手鞠の槍が目に見えぬほどの光速で元親の左目を貫いた。
「ぅおうッ!?」
のを間一髪で本人がかわした。
「ッてめえ!この流れの中で何恐ろしいことしやがんだ!」
「えいさー」
「うおぉやめろ!人の死角を的確に狙うんじゃねえ!目を突くな!コラ!」
慌てて部下もろとも後ずさって距離を作ると、さっきから全く変わらずにぼんやりとこちらを見ている顔から舌打ちが聞こえた。
「てめぇ…初っ端から人の目玉を狙うたぁ何もんだ」
「私、手鞠 」
「そうか、手鞠。俺は何も取って喰おうとしてるわけじゃねえ、その槍を下ろしな」
「私が取って喰おうとしている時は?」
「頼むんで下ろしてください!」
まあ充分距離も空いたことだし、と手鞠が槍を下ろして。
ようやく元親の後ろに隠れていた部下達も顔を出した。
よくよく考えれば初対面の娘一人に怯えすぎだろうとも思ったが、それだけ過去の毛利との戦が尾を引いているのだろう。
「…ん?そういや見たことねえ顔だな。二月前の俺との戦にいたか?」
「ううん。私、最近ここに来たの。だから鬼さんは知らない」
「ああ、そういうことかよ。んじゃちょいと座ろうぜ。俺達がここに来た経緯を話してやる」
二月前に初めて中国と四国で海戦があったこと。
その際に初対面の毛利の奇襲を受け、こてんぱんにされたこと。
負けた腹いせに報復しに来たのではなく、説教をしに来たのだということ。
「お前も最近毛利軍に入ったんなら丁度いい、長居はやめときな。ここは兵士を駒としか見ちゃいねえ」
「なるほどー。でもどうして本土に来なかったの?」
「本土には海軍があんだろ?そのまま乗りつければ囲まれちまう。ここならでかい船が入れねえし、話すだけにはもってこいだと思ってな」
「そのでかい船が入れないせいで負けたんすけどね…」
「…それを言うんじゃねえよ…」
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