「今日は少し遠くへ行ってくるから、留守番をお願いしようかな。」
九代目がそう告げた相手はスクアーロだった。
ザンザスはまだソファーで眠たそうにしていて、羊は寝て寄りかかってくるザンザスを起こそうとぐわんぐわん揺り動かしていたからだろう。
「少し東の方に行かなきゃならなくてね。
本部の方の人が少なくなるから、今日だけそっちにいてくれるかい?」
「分かったぜぇ。」
「おじいちゃん気をつけてね!」
大きな声を出した羊がザンザスに眠りながら殴られた。
頬を引っ張ってやり返している風景を九代目が小さく笑いながら見守っている。
驚くべきことにスクアーロは九代目と出会ってから、一度もこのボスが本部を離れた所を見たことがない。
どんな場所に出かけたって朝は三人を送り出して、夕方は三人を出迎えた。
自分達が長期休暇で始終別邸にいる期間以外は、それを一度も欠かしたことはなかった。
「留守番っつうのは初めてだなぁ。」
「そうだね、火には決して近寄ってはいけないよ。
厨房もね。」
「あぁ。」
九代目は保護者らしい心配具合で念を押すと、もう完全に羊に乗りかかって寝てるザンザスを一瞥してから帽子をかぶる。
スクアーロとしてはこうして九代目がアジトを離れられるくらいには信頼されているのかと思えば、それなりに嬉しいものだった。
「じゃあ行ってくるよ。」
「おぅ。」
「はーい、行ってらっしゃーい。」
寝てるザンザスの手を持ってブラブラ振りる羊と、小さく手を振るスクアーロで九代目を見送った。
直後に繰り出されそうになったげんこつを羊は紙一重で避けていた。
終わりの始まり
「…なんか落ち着かねぇなぁ…」
いつもとは違う部屋の椅子に座っているとそんなぼやきが漏れた。
羊曰わく普段ザンザスと生活している別邸と一番似た作りの部屋を選んでもらったらしいが、やはり本邸とでは違いがある。
今日のようにここへ通って来ているだけの羊なら気にならないだろうが、別邸がもはや家代わりのスクアーロとしては座りが悪い。
「私がこっちでお留守番してるからスッ君達はいいよって言ったのに。」
「お前が行ったらザンザスがついていくだろぉ。
なら結局は同じことだぁ。」
そっかーと他人事のように聞きながら後ろを見ると、例の御曹司は時間稼ぎ用に持ってきたビデオを大人しく見ている。
何十回と繰り返してきたように、今日もまたコダマのシーンを見ているので、最近ザンザス以外の二人はコダマを一人一人判別できる境地に至った。
「こっちに何か遊べる物あったかな。」
「記憶にねえなぁ、一介のマフィアのアジトだぜぇ。」
「そうだよね、うーん。」
「おい、ラピュータ見せろ。」
「別邸に置いて来ちゃったから明日見ようよザン君、日曜日だし。」
数十分後。
「もうかくれんぼでいっかあ。」
「俺今ものっすごい妥協を見たぜぇ…」
結局ザンザスの意向を含めて、無事かくれんぼに決定した。
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