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「遥か昔からね、男は女に勝てないのよ。」



我が物顔でアジト内のソファーに座ったまま、ペディキュアを見つめていたエリツィンが呟いた。
その言葉を、どこかで聞いたことがあるような気がした。



「アダムとイヴだってそうでしょ、イヴは蛇に負けたけど、アダムはイヴに負けたんだし。」

「うん。」



聖書の知識は少なかったが、一応名無しの知っている情報とは違えてなかったので頷いておく。

昼下がり。
例に漏れず任務で出払ったアジトに人気はなく、野猿は名無しの横に転がって寝息をたてていた。



「それでーこないだ買ったタトゥーシールが全然肌に合わなくてー」



野猿の体からずり落ちたタオルケットをかけ直した隙にすでに話題が変わっていることにももはや慣れたと言っていい。
現れては消えていく太猿の取り巻きの女性達の中でも、エリツィンは名無しが名前を覚えるほど比較的長くここに来ている方だ。

当の本人は太猿が仕事に行くとさっさと名無しや野猿にちょっかいをかけにくるドライさを持っているが。



「っていうか最近太猿様の取り巻きになった子が超ウザくて!
すっごい生意気でほんと何様のつもりっていう―――」





名無しとしては年が近い同姓の相手がいるということ事態珍しく、最初はどう接するべきか多少戸惑う時期はあったにしろ、今はもう慣れた。





「――ほんとあの新しい子いつかシメる、チョップとかしてやるんだから、このエリツィン様の女王様チョップはガチで痛……あー…また名無しに愚痴っちゃった。
嫌だったら聞き流して。」

「いや、別に嫌いじゃない。」

「ほんと?
愚痴が好きとか、あんたも変わってるのね。」



端正な人形のような顔がニッと笑う。
髪が長い分、その笑顔が野猿のそれと少し被って見えた。

男は女に勝てない。
それが本当なら良かった。

もしも本当だったら。






「おはよう娘チャン、今日も頭がどうにかなりそうなくらい可愛いね。
神様なんて信じてないけど娘チャンを作ってくれたのが神様なら僕は世界一敬虔な信者になれるよ。」



目の前の存在へ、彼女のようにまっすぐな悪態をつけたのかもしれない。
そう思った。



 


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