ずいぶんとゆっくり目を覚ました。
いつも通りの天井を視認してから息を一回吐き、ベッドから身を起こす。
このところ昔の夢ばかり見るのは何かの予兆なのだろうか。
「………?」
不意に辺りを見渡せど誰もいない。
自分の部屋なのだからそれもそのはずなのに、いつも寝起きは近くに誰かがいたような気配が濃く尾を引いている。
昔は人の気配が僅かでもすれば体が目覚めてしまう癖があったのに、今ではすっかり取れてしまって逆に多少のことでは起きなくなってしまった。
そうなるのに半年ばかりかかったからこの癖が取れるのも同じくらいかかりそうだ。
「…………起きよう。」
野猿が迎えに来る前に。
「ホームシック?」
共に書類に目を通していたγが意外そうに聞き返した。
「なのかと思うくらい昔の夢を見る。」
「………」
「γ?」
「いや、やっとかと思ってな…」
いつ来るのか心配していた、と続けた。
いつまで経ってもそういった様子を見せないので、郷愁に襲われないほど前のファミリーは未練の無い所だったのかと真剣に考えていたのだそうだ。
「まあこういう物は遅れて来るもんだ。
……当然、連絡は取れないんだろう。」
「うん。
盗聴器くらいは付いているだろうし。」
目の前であてがわれた例の携帯をコツコツと叩いて見せた。
それを知っているのでブラックスペルの間では絶対にこの携帯へ業務連絡を入れることはしない。
「…やることなすこと、妙な点が多いな。
お前と連絡が取れるとは言え人質に携帯を持たせた。
と思えば、ホワイトに入れておけば格段に行動を把握しやすいはずのお前をブラックスペルに入れた。」
何か裏があるだろうとは名無しも感じていたけれど、何分まだ日が浅いので予測できるだけの情報や材料が無い。
「そもそも白蘭はどこでお前をああまで見初めたんだ。」
「分からない。
接点はあったけれど、何かをした記憶は無いから。」
「お前は鈍いからなあ…」
「ああ……」
そう言われればそうなのだが。
けれど不思議に思っていたことは事実だった。
色恋の経験が無くたって、あの男の思いが異常だということは分かる。
政略結婚を狙うだとか自分の組織の力を利用したいならともかく、ヴァリアーを敵に回した以上そんな事態も見込めない。
何を以てして、この自分にそこまで思い入れるのか。
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