「ありがとう密告者。」
「ちょうどの所に入江いたしな。
おつかれ。」
「うん。
……さてと。」
ようやく手すりにかけてた隊服を羽織る。
「γのところに行こうか、野猿。」
「おう!
あ、菓子屋行っていい!?」
「いいよ。」
「やりー!」
名無しの袖をぐいぐい引っ張って、無理矢理に一階まで走り出した。
転ぶよと名無しが行って、平気平気とオイラが答える。
ブラックスペルのたまり場はホワイトと違って結構薄暗い廊下の先にあって、どこかの国のスラム街みたいな雰囲気がある。
でも部屋まで着いちまえば、全員馴染みのある奴らばかりの意外と明るい場所だ。
まあ皆顔怖えし、酒とか女とかいるからホワイトの奴らには毛嫌いされてるけど。
「おっす兄貴!」
「おはよう。」
「おう野猿に名無し、来たか。
まーた菓子屋に寄ってきたな。」
「へへー。」
挨拶代わりに互いの手を叩き合い、膨らんだポケットを軽く叩かれる。
γ兄貴の横では太猿兄貴がいつもみてーに若いねーちゃんをつれて酒を飲んでいた。
「名無し、あいつはどうした。」
「午前中は無事。」
「そりゃ良い日だ。
おっし今日も始めるぞ。」
「ういーっす。」
兄貴のかけ声でそこらでビリヤードとかをやっていた奴らも集まってくる。
オイラ達ブラックスペルのこうした朝の集まりに、名無しが加わるようになったのはほんの一ヶ月前だ。
名無しは他のマフィアからブラックスペルへ移隊してきた。
オイラ達の中に女が来るなんて昔のボス以来だったからどうなるかすげー不安だったけど、来てみたら案外あっさり名無しは馴染んだ。
兄貴達いわく「タンタンとしてるから楽」らしい。
名無しがここに来たのは結構訳ありらしくて、今の所γ兄貴くらいしかそれを知らない。
でもオイラはそれなりに名無しが好きだから別に知らなくてもいいかなって思う。
「γ、昨日の書類。」
「よし、じゃあ細かく検討するか。」
名無しが担当するのは何でか書類仕事ばかりだから、ガキ扱いされてめったに外の任務に行けないオイラとよく一緒になる。
今日も並んでソファーに座って、γ兄貴と名無しのやり取りを観察するくらいしかやることがない。
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