「まあ上手くいって何よりだ。」
「うん。」
γが三次会くらいには突入しているメンバーの中から野猿を引きずり出してきて、名無しに手渡しながら言った。
子供用のシャンパンを用意するというのは彼らの流儀に反するらしく、今日も立派に潰れている。
「準備の間野猿を連れ出してくれて助かった。
あいつお前が菓子屋でしたこと五回も話してきたぞ?」
「ああ…」
みなまで言うな、と同じ意味の相づちを名無しが打ったので、γも「お前がなあ」と笑い返すだけに留めておいた。
「お前は何相手でも『我関せず』な奴のに、野猿相手には本当に恐る恐るだな。」
「……自分よりも小さい生き物に生来会ったことがなくて…いや、年齢的な意味で。」
「ああ分かってる、俺達も姫と会った時はそうだった。
思い出すのも勘弁願いたいほどだ。」
結局は時間しか無いのかもな、という呟きに、きっと心から同意した。
自分を見つけた時、自分が現れた時、あのボスと同僚は今の自分と同じ気持ちだったのかもしれない。
彼らがしてくれたことと同じことをしてやりたいと思うのに、まだどうにも上手く出来ないでいる。
「というわけでこの酔いつぶれた野猿を任せる。」
「任された。」
宴を抜け出し、ベロベロになってる野猿を抱えて当人の部屋に戻った。
飛び出した時のまま変わることなく、床に菓子が散乱したままになっている。
それらを踏まないよう慎重にまたぎ、ベッドへ野猿を寝かせた。
散らかっている菓子をとりあえずずだ袋へ戻しながらまたその奇妙なパッケージを眺めていると、ごろりと寝返りと共に小さな呼び掛けが聞こえてきた。
「んにゃ……名無し……?」
「うん。」
ごしごし目を擦る野猿に、明日起こしに来るから寝てもいいと伝える。
それを聞いて一度はうなずいたように見えたが、去ろうとした自分の袖をしっかと握られた。
「…気持ちわりぃ…」
「どうして。」
「多分……酒。」
胸元を握って顔をしかめる様子に、そう言えば酒は悪く酔うと吐き気や胸焼けを伴うことを思い出した。
自身に「酔う」という経験が皆無で、すぐにピンとこなかった。
「どんな具合。」
「吐きそうだけど、多分ガチでは吐かない……うぇー。」
吐き気は厄介だ、吐けてしまえばまだ楽なのに。
時間が過ぎるのを待つしかない。
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