大きなずだ袋に店の商品をざっかざっかと詰め込まれる作業と、隣で突っ立っている名無しの顔との間で視線を行き来させていた。
どっちを見てればいいんだろう。
「すっげえ量だな…」
やっとそれだけ呟いた。
それでも名無しは財布を見て「思ってたよりも減らない」とかよく分かんないことを言っていた。
「名無し、ガチでこれ全部食えんの?」
「いや私は食べない。」
「…じゃあ誰が食うんだ?
アニキ達にでも分けんのか?」
「野猿。」
そりゃあそうだろうとでも言うようにいつも通りこちらを見る。
……へ?
「誕生日だから。」
「………………え、オイラが?」
「?
うん。」
目を見開いてパクパクと口を開く金魚のようなオイラに、名無しが訝しげに首を傾げた。
「違う?」
「ああいや、今日!
今日だけど、でもほらなんつーか、こういうのってさ…!」
えーと、あーと、と言葉を探しに探すけれど、口が上手い方では無いので思うように出てこない。
散々頭を抱えた挙げ句、ようやくぽつりと呟いた。
「こういうのってさ、他の奴には別に普通の日じゃん…『トルニタリナイ』って言うんだろ?
皆覚えてねーのに、オイラだけはしゃいだらガキっぽいっつーか、なんつーか…」
「どうして。」
どうしてって言われたって、誕生日なんて皆忘れてるもんだって思ってたし、いつ名無しに教えたのか思い出せないくらい曖昧な扱いをした。
本当は朝起きて真っ先に気づいてたけど、誰にも言わないで終わろうって決めてたのに。
「だってオイラ、こういう時なんて言うのかとか知らねー――ぅおあ!」
ずしいっと腕にパンパンのずだ袋を落とされ、体が前に傾いだ。
全神経を腕に集中させることに必死になってたけど、それでも頭に置かれた手のひらの感触には気づけた。
「おめでとう。」
朝の挨拶のように何も飾らず名無しが言うから、多分、周りからたくさん言われたことがあるんだろうなって。
そう思った。
サンキュ、って小さく言ったら、また頭を撫でられた。
誕生日は祝われるべきだと名無しは言う。
結局一つの袋じゃ収まらなくて作られた二つ目のパンパンのずだ袋を抱えた名無しと、並んで廊下を戻っていた時だった。
「…名無しはそう思うんだな。」
「思う。」
「そう思わない奴だっているんだぜ。」
「知ってる。」
俺への贈り物をぎゅうと握ると、心地いい菓子袋の音がした。
誕生日のそれというにはあまりに隠す気と飾る気がなくて、超どストレートなプレゼント。
多分オイラが喜んでも喜ばなくても、名無しにはあまり関係がないに違いない。
オイラが自分の誕生日をどう思っていようが、「祝った」なら、名無しはきっとそれでいい。
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