ホワイトスペルとブラックスペルのどちらもが使う店はアジト内にも少なくて、オイラ達が着いた「菓子屋」というのもその一つ。
店構えはお世辞にも少し大きな屋台レベル。
しかも山のように並べられたカラフルな菓子でコーティングされて人の姿が全く見えない。
その中央の四角く切り取られたスペースの向こうに見える新聞紙の一部をバシバシ叩いた。
「おっさーん、今日も来たぜ!」
「おうジャリ、元気そうだな!」
ばさあ、と中のおっさんが新聞をどけると、ギリギリその顔が四角く切り取られた中に見える。
今日も偏屈そうな顔のままオイラと名無しを見てにっと笑った。
「ようし、別嬪な姉ちゃんを連れてきたから5%負けてやろう。」
「よっしゃ!」
飛び跳ねてると伸びてきた筋肉だらけの腕がわしわしと撫でた。
ついでに名無しも撫でられた。
朝アジトへ行く前や3時近くにここへ来るのはすでにオイラの習慣で、ほとんど一品物だらけの菓子屋で長時間悩むのもまたそうだ。
そんな姿を咎めないでずっと見つめているだけの名無しもおっさんも、良い奴だと思ってる。
「おっさんの店いつも人いねーな、流行ってねーの?」
「まあ繁盛してない訳じゃあねえが、毎日来るのはお前さん達とここの白い頭領くらいのもんだな。」
「げっ、あいつも来てんのかよ……」
「ああ、よく鉢合わせしないもんだ。」
その一言に「だよなあ」と素直に思った。
「さってジャリはまた散々っぱら悩むとして、姉ちゃんはどうだ?
たまには何か買ってくか?」
「そうする。」
「お、珍しいな。
何にする?店主としちゃこの舌が七色に変わる飴辺りがおすすめだが。」
「えーと……」
名無しが誰かを思い出しているように悩んでから、慣れてないのかゆっくり人差し指を持ち上げた。
「…あの右のてっぺんの端から、」
「おう。」
「…この左下の端まで、」
「おう。」
「全部もらう。」
「おう!
……………ぉおう!?」
「えええええ!?」
口を開けたまま固まってしまったオイラを後目におっさんはさすが店主らしく、少し動揺はしたものの。
「は、払えんのか姉ちゃん。」
「この財布を見てほしい。」
「へいまいど!」
商人魂を見た。
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