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「名無しー、ボタンボタン。」



アジトの廊下。
隊服を着ながら後ろを歩いてくる名無しへ振り返った時、まず目についたものを教えてやった。
ボタン?と聞き返すから、ちょいちょいと自分の胸の辺りを指さして見せる。



「ワイシャツの。
一個ずれてはめてんぜ。」

「…ああ。」



まさに今羽織ろうとしていた黒い隊服を廊下の手すりにかけて、一段ずつずれているワイシャツのボタンを外しにかかった。



「途中で気づけよなー。」

「癖なのかな…最初がずれてても最後までかけきっちゃって。」

「何かぼーっとしてね?
寝不足?」

「それはなー」

「昨日の夜は僕とお楽しみだったもんね。」



突如名無しの背後に現れた存在に口がゲッと呟くのと、名無しが後ろへ肘鉄を食らわすのは同時だった。
それを間一髪で避けたにも関わらず、懲りることなく後ろから首に抱きつく。



「おはよう名無しチャン。
名無しチャンの打撃って目に見えない速さだよね。」

「離れて。」

「やだ。」



鼻歌混じりのこいつとは逆にこっちが竦んじまったのに気づくと、名無しが視線で大丈夫だと告げた。

こいつは、白蘭は、名無しがいるなら名無し以外へ興味を持つことはきっと無いだろうから。



「ところで名無しチャン、何でそんなにワイシャツいじってるの?」

「ボタンかけ直してるから。」

「え、廊下で?
ていうかそんなシーン僕でも見たことないのに、こっち向いてもう一回やって。」

「嫌。」



白蘭の存在を無視してさっさとボタンを留め直した。
名無しの中で白蘭は積極的に無視をする方針らしい。

そんな時良いところに白蘭のお目付役が通ったから、あいつの視界に入らないよう(元から入ってないけど)そっとお目付役に向かって手を振る。
運良くこっちに目を向けた。



「あ、白蘭さんこんな所にいたんですか!」

「あれ、正チャン見つけるの早いな。」

「密告者がいましたからね。
今日は慰問ですから午前中に名無しさんと二時間は駄目ですよ。」

「分かってるって。
じゃあ名無しチャンまた後でねー。」



腕を引かれながらやたら明るく去っていった白蘭を見届けた辺りで名無しがこっちを向いた。


 


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