「うわあ゙あ゙あああああ!!」
四人の心からのシャウトが響いても普段から騒がしいアジト内では誰一人気にとめない辺り、日常だった。
それからエリツィンは髪が長いから頭を振り回すと凄いことになるなあと、残りの卵焼きを丸かじりしながら名無しが思った。
「ばっ……弟、何だこの物体…」
「卵焼き。
……ただし白蘭が焼いた。」
「おまっ、早く言え早く!」
「何だよあの甘いような苦いような塩辛いような味は……」
「名無しお酒!
早くあたしにお酒!」
どさくさに紛れて酒を飲もうとするエリツィンを阻んで水を与えてから、まだ一本の半分ほど残っている卵焼きを呻く三人組の前に置いた。
「『じゃあその一本はそっちに任せる』。」
「…弟が鬼と化している件について…」
「何でこんな兵器を処分しねえ……」
「卵9個分を捨てるのはさすがに。」
そう言いながら続きをまくまくと食べ始めたのを畏れのこもった瞳で見つめられていた時、ようやくこの三人組に聞こうと思っていたことを思い出す。
「……野猿は?」
「あ?野猿?」
γや太猿、もしくは名無しの見張りや許可が無いとあまり遠くへ行けない野猿が、こうまでアジトにいないことは珍しい。
特別に誰かの任務へついて行ったという訳でも無いようだ。
「……あ、そういやあいつ、お前を迎えに行くって出て行ったきりだぜ。
俺らはどうせすれ違うからやめろっつったんだが…」
「え。」
振り向けばいつも二時間を計る砂時計は逆さまになっている。
野猿はこれを見て自分の「お務め」の終わりを知るはずで、ともすれば、まさか白蘭の部屋になど行ってはいないだろうか。
「……見に行ってくる。」
立ち上がって扉を開けかけた名無しを、γが言葉で止めた。
「またすれ違ったら洒落にならないだろ名無し。
野猿は無防備にあいつの所に行くほどガキじゃねえ、心配するな。」
「…γ。」
「もちろん、それには及ばない。」
突然割って入った聞き慣れない声に体の動きを止めると、この場にいた全員が一斉にそうしたのが分かった。
自分の目の前でゆっくりと扉が開かれる。
そこにいたのはこの上なく浮いた白い隊服を身につけている男が一人、ただし白蘭ではなく。
「…グロ・キシニア……」
低いγの呟きに、名無しの頭が顔と名前を一致させる。
白蘭の部下で確か六傑のような扱いを受けていて、そして。
その姿の横に、今にも泣きそうな野猿が立っていた。
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