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次の日。



「名無しチャン、お昼寝とお茶どっちがいい?」



今日は午後に呼び出されたと思えば、そんなことを聞かれた。
今までの二時間の過ごし方には無い選択肢だ。



「お昼寝って…」

「言葉通りだよ。
二時間お昼寝。」



この二時間の中でも自分の身体の保障はされているので何かをされるということはない。
それを踏まえての昼寝なら、慣れない会話で時間の経過を待つよりも、寝てしまった方が楽なように思えた。



「ならそれ。」

「わーい、じゃあ名無しチャン寝て寝て。」

「…白蘭は?」

「僕は寝ないよ。
寝てる名無しチャンを見たり触ったり撮ったりしなきゃいけないんだから寝てたら時間無いよ。」

「お茶で。」



世の中うまい話は無いものだ。








「それでね、正チャンが――」



流れてくる言葉を耳に流し入れながら、記憶だけを上手く働かせてみる。
忘れていることはないか、書き換えられている物はないか、もしそうなってしまっていたとしても、出来うる限りを思い出してみる。

昔いたアジトのこと、同僚のこと、任務のこと。
何事もなく暮らして、同僚の仲間喧嘩とかボスの家族問題とか、私が初めて部下を持ったり、ついに連れ回された店が100件を超えたり、そうやって物騒ながら平穏に生きてきた途中に。





「――名無しチャン?」





この男は来た。

今と全く変わらない笑顔のままで。





「名無しチャンまたよそ見してたでしょ。」

「そっちを見てた。」

「ううん、頭の中で別のものを見てたよ。」



読心術を使える人間は、いないと思っている。
有名な占い師や口先の上手な人間が扱う代物はまあ技術として、予備知識も無しに目の前の人間の心が分かる人間などいないと思っている、けれど。





「頭の中で、昔の僕を見てたんだね。」





睫毛が触れそうなほど近くへ顔を寄せて微笑むこの存在は、多分人では無いのかも知れない。



「僕は名無しチャン絡みなら五分前の僕にだって嫉妬できるんだから、気をつけないと危ないよ?」

「気をつける。」

「ふふ。」

「だから離れて。」

「えー。」



渋々といった感じで元の位置に座り直した白蘭へ、何となく、人の心は読めるものだと思うか尋ねてみた。
珍しいこちらからの話題に驚きながらも、またその内にっこりと笑む。



 


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