「名無しチャンが僕にもお弁当作ってくれたらユニから取ったりしないよ♪」
しばらくは取られること前提でおかずを増やしておこうと心に決めた。
果たして今どのくらいの時間が経ったのか確かめたくて仕方がないが、それを確認するすべは持っていない。
時間を気にされたくないとこの「二時間」の間は腕時計を外されるし、白蘭の部屋にも時計はない。
正一が部屋に時間を知らせに来て、ようやく今日のお務めの終わりを知る。
「でさ、正チャンお裁縫も得意なんだって、お母さんみたいだよね。
名無しチャンは何か縫える?」
「あー…それなりの物なら。」
「本当っ?
じゃあ僕に何か縫ってよー。」
「その口とか?」
「あはははは。」
何を返しても心底嬉しそうに笑う。
何が楽しいのだろう。
「だって名無しチャンが僕の目の前にいるんだから。」
また心を読まれた。
少し訝しげに白蘭を見るとにっこりと笑う。
その思考が分からない。
「好きだよ名無しチャン。」
私は嫌い、と視線に乗せて丁重に返す。
今この瞬間、以前に自分がいたあの場所が無事でいる保障は何一つ無いのだから。
ブラックスペルアジト内。
「名無しそろそろ帰っかなー。」
「もうじきだろう。
あの悪魔も120分の砂時計はどうにも出来ねえからな。」
ビリヤード台にもたれかかる野猿が、キューの手入れをしていたγになだめられた。
名無しが呼び出された直後にひっくり返した砂時計はついさっき空になったばかりだ。
「なーγ兄貴、何で名無しはオイラ達のところに来たんだ?
前にもどっかのマフィアにいたんだろ?」
「……あいつも白蘭の犠牲者だ。
今はそれだけを知っておけ。」
「…あーい。」
やや不満そうながらも野猿が頷いた時、ゆっくりとアジトの扉が開かれた。
名無しの帰還だった。
「名無し!
おっかえりー!しょあ!」
「ああ、ただ今。」
野猿のはちゃめちゃな手刀を受け流して、ついでに背後から狙っていた三人組のヘッドロックもかわす。
こういう時だけは二ヶ月の慣れを自分でも感じた。
「ご苦労さん名無し、お前も大変だな。
たまにはあんな奴のことなんざガン無視してみたらどうだ?」
「逃げたり抵抗すると相手が喜ぶんだ…」
「ああ、そういう類か…」
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