ここに来て二ヶ月が経つ。
前にいた所と比べて時間の流れが早いのか遅いのかは、もう判断出来なくなった。
それでもブラックスペルでは野猿やγ達が、それ以外では正一や世話役の彼女達が目にかけてくれるので苦しいことは思っていたよりもない。
ブラックスペルの隊服が少しだけ前にいた所の隊服と似ていたこともきっと良かったんだと思う。
そう、だから、この二ヶ月が長かったか短かったかは簡単には言えない。
でも。
「名無しチャン♪
僕との時間だよー。」
「……」
ただこれだけは言える。
これからの二時間は、長い。
外に出る任務や仕事はしないこと。
ブラックスペルの人間と打ち解けること。
そして一日のうち二時間、求められた時に白蘭に付き合うこと。
この三つがここに人質として迎えられた際の約束事で、これを守りさえすれば身の安全は保障される。
そして言うまでもなく、その三つ目が難問だった。
「名無しチャンが来てもう二ヶ月かー、あっという間だったね。」
二ヶ月だから、もう約六十回この男とこうしてお茶をしているのかと名無しの頭がいらない計算をする。
たまに場所は変われど、毎度毎度こうして向かい合ってお茶を飲むことになぜ相手が飽きないのか不安に思う。
散歩に連れ出されるにしろ、部屋内で映画鑑賞に付き合わされるにしろ、基本的にしていることは会話がメインなわけで。
「名無しチャンはこの二ヶ月長かった?短かった?」
「…短くはなかったけど、言うほど長くもなかった。」
「それは良かった。
じゃあ今度二ヶ月記念パーティーしよっか、二人っきりで。」
「しない。」
「えー、一ヶ月記念パーティーもしなかったのに。」
今のところ会話は120%白蘭が振っている。
自分はお世辞にも会話が上手くないので素っ気ない返事ばかりになるのに、よくここまで淀みなく会話が出てくるものだと思う。
おまけに自分の返した発言を一字一句間違えることなく覚えているのだから油断出来ない。
「あ、そう言えば名無しチャンさー、最近ユニにお弁当作ってあげてるよね。」
「人の玉子焼きを取るのはどうかと思う。」
「あははもうバレてるんだ。
そう言えば最近は別の人が作ってるよね、あの小さいハンバーグを名無しチャンが作るようになったのかな?」
な ぜ バ レ て る 。
確かに最近弁当作り部隊でおかずの役割を変えたけれどそれは本人であるユニも気づいていないはず。
思わず理由を聞き返すと満面の笑みで「えー、愛?」とかほざかれた。
毒入りの玉子焼きを作ってもこの男は食べるだろうかと考えた。
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