「γが名無しに背中を突き飛ばしてもらえたとお礼を言っていました。」
「…取り立てて何かはしてない、と思う。」
「そんなものです。
自分は気づかなくても、相手には大きなものを与えていたこともたくさんあります。」
嬉しそうにそう話す横顔を見ていた名無しと、ふと視線を合わせる。
嬉しそうに見えていた瞳はなぜか、目が合った瞬間少し悲しそうにも見えた。
「γは、どんなだった?」
「ふふ、いつもどおりです。
飾らなくて、大人の態度で、優しくて…」
「すごく不器用でした。」
その言葉に、名無しはそう、とだけ答えた。
どの保護者も変わらないのだと妙に納得しているとき、部屋から出ていこうとしたユニが微笑みながら振り返る。
「名無しも同じように渡したんじゃありませんか?」
はた、と自分の目が見開いたのを感じた時には、もうユニの笑顔は扉の向こうに消えていた。
しばらくその場に立ったままでいたが、そのうち困ったというように腕を組む。
(白蘭と対等に仕事してるだけあるなあ…)
無言のうちに取られた一本を考えるとそう思わずにはいられない。
なぜだか多少しみじみとしていると、後ろから野猿の叫びが聞こえてきた。
「名無しー!
アニキが玉子焼きの作り方教えてくれって!」
「…ああ、うん。
今行く。」
そうしてさして気にせず、元の喧騒の中に戻って行った。
ただ野猿に引っ張られて近くに並んだとき、無意識にその頭を撫でていたことには、気づいていないようだった。
100220
戻る