「…お前に聞きたいことがある。」
本日、名無しは野猿と共にやってきたアジト内で険しい顔つきの仲間に囲まれた。
その筆頭はもちろんγ。
ほぼ無理やり大勢に中央のソファに座らされ、真剣な顔の上司に尋問のようなことを匂わされている。
何か問題が起きたのかと身構えたが。
「…お前、料理は作れるか。」
もはや杞憂に終わりそうだった。
「…子供の頃は多少してたけど。」
「そうか…実は俺たちで、姫に弁当を作ろうかと思っているんだが…」
弁当、という単語がストンとボスであるユニに繋がる。
我らがボスは一人だけ幼い体をしているので、会議などの食事で他の者と同じものを与えられても食べきれない。
しかし作り手や食材に申し訳ないと無理をして食べてしまうのだと前々からγに相談されていた。
それで弁当の意味も理解したが、未だにこの部屋の空気はビリビリとはりつめている。
「時にお前は…何が作れる。」
「弁当内においてなら…卵焼き、とか。」
次の瞬間、ガシッとγに手を握られた。
「…よし!
卵料理は確保した!」
「日本の卵焼き悪くない!悪くないぞ!」
「良くやった弟!
黄色だ!救いだ!」
一斉に歓喜する男たちを前に、未だこのファミリーのテンションというものは難易度が高いと再認識する名無しだった。
「何かアニキ達の作れる料理で弁当作ろうとしたら、色合いがめちゃくちゃ悪かったらしいぜー。」
エプロンをつけてアジト内のキッチンで卵を混ぜているとき、近くでニンジンの皮を剥いていた野猿が有力情報を教えてくれた。
周りではおおよそ料理とは無縁そうな男達が各々何かを作っている。
「それであんなに。」
「そ、蓋開いて茶色じゃやばいんじゃね?
俺っちはよくわかんねーけど」
それは確かに切ない。
卵焼きの他にも野菜で彩りを取ることに決めたので、そんな光景は回避されそうだったが。
「γは何を作るって。」
「ハンバーグ。
アニキ料理ったら酒使うのしか知らねえから、すっげえ何作るか迷ってたけどな。
上手いんだぜーアニキ。」
「へえ。」
他愛ない会話を交わしている最中、名無しは不意に背中へ嫌な感覚がざわりと走ったのを感じた。
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