冬の瀞霊廷内は暖かい。
雪がしんしんと降る中で、皆思い思いに仕事をしている。
*雪合戦は死なない程度に*
ジリリリリリ!!
副隊長席の上で比較的大きな目覚まし時計がやかましく鳴り響いた。
慣れた手つきで【隊長専用】と書かれそれを止めたイヅル。
出隊時刻に鳴るように設定したはずなのだけど、この室内には今日も一人足りない。
「…市丸隊長、百回連続遅刻おめでとうございます。名無し」
「ん?」
「市丸隊長を起こしてきて。百回記念だから何やっても良いよ」
「わーい。行くよファイ君ー」
そう言って三番隊隊員の名無しの名無しがトテトテ出ていった後。
三番隊副隊長のイヅルはやれやれ、とため息をついて書類をまとめた。
――――――……
「ギンさんの寝坊にも困ったよねーファイ君」
私の首に両腕を回して背中にぶら下がっているファイ君が、返事をしたようにうなずいた。
宿舎の部屋に入るといつものように敷かれた布団の中で寝ているギンさんがいる。
今まで起こしに来た中で自分から起きたことは一度もない。
「ギーンさーん」
ペシペシ寝ている横顔を叩いても返事はなし。
あらら、今日は相当良く寝ていらっしゃる。
安定した寝息を立てている横顔を確認すると、そのまま布団を通り越して部屋奥の大きな障子をスパンッと開け放った。
そこからは外の縁側に続いていて、今朝積もったばかりの雪が見えた。
「よしファイ君、アレだ」
ファイ君に合図を出すと、あらかじめ飲み込んでもらっていた大きなタライを口から出した。
この間の取り扱い説明書でファイ君にはこんな機能もあることが分かった。
そのままタライを持って外の雪を大量に乗せるとギンさんの横まで戻る。
「ギンさんー、起きてー」
「くー…」
「ギンさーん」
「くー…」
そろそろコレが最終警告だと言うことに気づこうよギンさん。
起きないのをしっかり見届けて、その横顔に。
「せーのっ」
ドシャッ
一瞬の躊躇いもなくタライの雪を全てブチまけた。
「いーち、にーい…」
ギンさんの顔が隠れるくらいに積もった白い雪。
その横に屈んでゆっくり時間を計る。
「じゅういーち、じゅうにー…」
やがて首から下がワナワナと震えだして。
「ぶはあっ!」
「十七秒」
軽い凍傷と窒息に陥りそうなギンさん、起床。
「おはよーございます隊長」
「おさよーやないやろ!氷ン中に閉じ込められた夢見たわ!」
それは案外楽しい夢なんじゃないかなーとか思いながらギンさんの首締め攻撃を受けていた。
「ギンさん、イヅが起きてだって」
「あーもう少し寝たら行くわ」
そう言ってまた布団の中に戻ってしまった。
まあそんなこと許すはずないです。
ドシャッ
今度はバケツ量の雪をプレゼント。
さすがに二度目となると遠慮なしに掴みかかられた。
「寒いやろどー考えても!」
「ギンさん、季節感は肌で味わった方が良いんだよ」
「味わうんは春と秋だけで充分や。夏はええ、夏はもうええ」
うん、私も熱中症はもういい。
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