「しゃあない…僕がやるか」
ギンさんがトンッと高い塀の上に飛び乗って、指先を虚に向けた。
「破道の十九・水門解除」
いきなり空に四角く穴があき、そこから大量の水が降ってきた。
「ギャッ…」
その水が頭上から降り注ぐと、虚の声がやけにくぐもって消えた。
ほとんど目の前に来ていた突進も止まる。
「あ、危なかった…」
ギンさんに続いてすぐさま塀に上ったおかげで、なんとか水には濡れずに済んだけど。
「ズルいギンさん、詠唱破棄するなんて」
「僕ら噛まないよう必死なんですよ」
「そんなら破棄できるようになってみい」
水が流れ終わるまで三人で下を見下ろしていた。
やがてそれが止まると。
「「「…何あれ」」」
思わず呟いてしまうような物が出来上がっていた。
虚がいた場所に、石のドームのような物がそびえ立っている。
所々水が跳ねたような形になっていて、虚はその中にすっぽり入ってしまっているみたいだ。
「まさか…かぶった水が石んなったんかな」
「ああ、それで身動き取れなくなっちゃったんだ」
「触れたものが石になるなら、そうなるか……」
かぶった水の量が尋常じゃなかったのか、虚が中から出てくる気配はまったく感じられない。
安全を確認して下りる。
コンコン、とイヅが叩くと、中から「きゅう…」と弱々しげな声が聞こえてきた。
あ、ちょっとキュンってした。
何か小動物を困らせてる感じ。
そんな私の気持ちとは裏腹に。
「殺しますか」
「せやな」
この非情な男二人組。
まあ、虚に情を持つ方が駄目なんだけど……。
「けど斬ったら斬ったで失敗したときまた出てまうし」
「斬って駄目なら刺しますか。黒髭危機一発みたいに」
「あーアレ…」
前に一回やったっけ、三人で。
だからって生きた物で黒髭危機一発なんて新手のリンチ以外何物でもないよ。
「うう…良いよー、私が一思いにやるよー」
「名無し涙目になってんで」
おぶさっているファイ君の口をパカッと開けて、少しひび割れて隙間が出来ているところにつけた。
この子は腹話術人形にもなるから、口の開閉は自由だ。
「吸って、ファイ君」
ズコオッ!
一瞬持っているファイ君がビクッと揺れて、静かになった時。
中身を失った石のドームがガラガラと崩れた。
私のファイ君は虚吸引機能を持っている。
ピエロの口の部分を開けて私が命じると、大体のものは吸ってくれる。
「名無し、その小さい隙間から虚を吸ったわけだよね」
「そだよ」
「…そっちの方が痛くない?」
小さい穴に体が吸い込まれていく…あ、確かに。
「まあ終わったことだよ」
「君は感傷的なのに切り替えが早いよね……」
元の位置にファイ君をぶらさげる。
石は散らばったままだけど、これにて一件落着ですね。
「はあ…疲れましたね。隊室に戻りますか、皆で仕事をやりましょう」
「僕詠唱破棄で疲れたから出来んー」
「私も虚吸ったから疲れたー」
「吸ったのは名無しじゃなくてファイ君だろ。ほら市丸隊長、早く戻りますよ」
「「はーい…」」
でも結局仕事部屋に戻ればギンさんは寝ちゃって。
私はパズルをやりだして。
イヅが机で仕事。
どうしてもこうなっちゃうけど、これが何年も続いてるから今更誰も気にしない。
これが私達の日々なので。
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