虚の足音がもうすぐ後ろまで聞こえてきていた。
「うわ来てる!来てますって!」
「何か対策立てんと!」
「ギンさん!とりあえず餌をあげて足止めしようよ!」
「よしきた!」
「…って何で僕の両手両足持ってるんですかあああ!」
「嫌か?」
「好きな人がいると思うんですかっ」
「平和のためだーイヅ」
「名無しっ!覚えてろお!」
「イヅ敬語とタメ口使い分けるの大変だね…」
「そんなことより虚来てるから!僕ら止まったままだから!」
しょうがなくまた走り出した。
結局距離縮めただけじゃないかと言うイヅにツッコミはいつも通り流れていった。
泣かないで、イヅは強い子だよ。
「しゃあない、石には石や!」
「どんな理屈ですか!」
近くにあった巨大な岩を三人で投げつけてみる。
ペイッ
「たいちょおおお!簡単に払いのけられましたよ!」
「ギンさん何その『やっぱり』って顔は!」
石には石が効かなかった。
こうなったらもう、出来ることを全部試すしかない。
「名無し、前に教えた奴をやろう!」
「わかった、あれだね!」
くるっと虚の方を向き、手をかざして。
「「君臨者よ!血肉の仮面・万象・羽ばたき・人の名を冠す者よ!心理と節制!罪知らぬ夢の壁にわずかに爪を立てよ!
破道の三十三・蒼火墜!」」
ボオンッ!
衝撃が巻き起こり、立ち上がった煙に虚の姿が隠れた。
突然イヅに詠唱を誘われても、私が知ってるのはこれだけだから逆に迷わなくて良い。
「やったかな…」
「並の虚なら足止めになるはずだけど……」
しかし、煙がはれたそこには、まるで傷一つついていない虚がギロりとこちらを睨んでいて。
再びこちらに向かって走り出してきた。
「あれ、何か怒ってるよイヅ!」
「もう駄目だ…!」
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