そのままずうっと夜が来るまで、名無しは僕の膝の上におった。









次の日。
まだおどおどしている名無しを連れて開発局の扉を叩けば、局員が愛想良く迎えてくれた。



「あ、こんにちは。例の改造魂魄でしたら直ってますよ」

「!
ファイ君!」



局員の横をすり抜けて、部屋の机に座らされとるファイ君に駆け寄る。
その顔には新しい、けどいつものピエロのお面がついとった。

名無しの姿が見えると、人形の腕でずる、ずる、とこちらに這い出した。





「やー、おおきにな」

「いえいえ、先輩達も珍しい物を研究出来て喜んでましたよ」

「おいリン!本気でそれ返しちまうのか?」

「いくら三番隊の隊長が同伴だからと言ってもな、お前は研究精神が……!」

「だあっ!黙ってて下さいよ!」

「…ほなさいならー」




ギャーギャーと不穏な空気に巻き込まれる前に名無しの首根っこを掴んでさっさとその場を後にした。
うん、やっぱり開発局はあんまり関わったらあかんな。





「ファイ君ー」



名無しの手に戻ってきたファイ君は、今日はいつもみたいに背中にぶら下がらず、名無しの正面に抱かれとった。
もう顔を手で隠しとらん。





「ギンさんありがとう」

「んー?」



何がやーと聞く前に、名無しはファイ君を抱いたまま笑って振り向く。
ああ、そういややっと笑ったなあ、なんて思う。



「名無しー、僕とファイ君どっちが好きや?」

「ファイ君ー」

「素直やなあ…」

「うん」



まあそれもそうや、ずっとそばにおってくれたのはファイ君で、一緒に成長したんもファイ君や。
何かにつけて妬く方がおかしい。

そうふと思った時、でも、と名無しが続けた。





「大事なのはギンさんと同じくらい」

「…僕と?」

「うん。だってね、私を見つけてくれるのはギンさん、話してくれるのもギンさん、撫でてくれるのもギンさん」






「私を連れてってくれるのはギンさん」





この子の世界は僕と、イヅルと、ファイ君だけで出来とって。
だからみんな役割が違う。

大事な理由も違う。

たったの一つも欠けたらあかん。





「…うん、連れてったるよ。どこまでも、名無しの生きやすいとこへ連れてったる」

「うん」

「ファイ君も一緒にな」

「うん」



そう言ってその頭にいつものように手を置くと、視線の先に、らしくもなく迎えに来たイヅルの姿が見えた。

イヅも連れてってくれるよね?という密やかな名無しの問いに、んーどうやろねえと少しだけ本心が漏れた。





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