「名無しー、僕とイヅルのどっちが好きやー?」
「ギーンさーん」
「せやなー。よしよーし」
「…………」
職務時間中。
僕がいつも通り名無しと遊んどったら、イヅルの視線が刺さりそうなほど鋭利なもんになって僕に向けられた。
けど僕は気にしないっちゅう無敵の盾を持っとるから全く応えんで遊びを続けると、ため息と共にあっちを向く。
今日も勝ってしもた、敗北を知りたいわ。
とか何とか思っとったら、イヅルがまたくるりとこっちを向いて。
「…名無し、市丸隊長とファイ君だったらどっちが好きだい?」
「ファイ君!」
敗北。
*物は大切に扱うこと*
あれ、何やろこの気分。
別に名無しとファイ君が一緒におるのは当たり前やし、大事なもんやっちゅうのも分かっとるし。
せやのに何かイラッとした、何か今イラッとした。
「そうだよね、やっぱり名無しはファイ君が好きだよねー」
「うんー」
うっわイヅルが妙に間延びした声で話しかけながらこっち見とる。
その口調似合わんねん。
「ほら隊長、遊びの時間は終わりですよ」
「…しゃあないか、もうこんな時間やし」
「当然の事でしょう。ほらさっさと仕事を――」
「昼寝の時間や」
「息の根止めますよ」
空恐ろしいイヅルの脅しから逃げ出して、さっさと眠りやすい場所へ移った。
名無しとファイ君は存じ通りほとんどの時間をああしてくっついて過ごしとるから、多分心臓あたりはとっくに共有されとるんやろうと思う。
後ろから名無しの首にしがみついてブラブラと、床につきそうでつかへんくらいの立派な体を揺らしている。
こんな図体の物を背負って重たくないんかと一度持ってみたことがあるけれど、そこはやはりそれなりに重さがあった。
(名無しとファイ君はよう似とるなあ)
(全然似てないよー)
(口の大きさなんてクリソツやん、ほーれ)
(いひゃい、ひっはらないへよー)
けれども名無しは本当に大切にファイ君を扱うから、僕に盗られでもせえへん限りは変な事故も起こさずにいた。
今日この時までは。
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