―――――――…
総隊長室内。
「まさかお主がのう…」
「意外でした?」
対峙して座っているのはかの総隊長と三番隊隊長。
それは一見はりつめた空気が充満しているように見えるが、お互い牽制しあっている様子はない。
「深く詮索をしない者の所にやるつもりだったんじゃが」
「そら残念でしたなあ。せやかて普通は疑いますやろ」
ひょうひょうとしていたギンが、まっすぐに元柳斎の瞳を射抜いた。
「こっちに来たくらいで記憶なんて無くさん」
せやろ?と小首をかしげられて、向こうは仕方無さそうに息を吐き出した。
細く長い、覚悟していたような息。
「…あれは、父親を殺しておる」
「…ほんま?」
「正確には殺したのは父親の虚、じゃがの」
名無しは普通の家に一人娘として育った。
潜在的な死神の力はあったがそれはあくまでも潜んでいるだけで、芽が出るはずはないものだった。
ところがある日父親が不慮の事故で死に、虚化し、名無しと名無しの母親の所へ戻って来たと言うことだった。
「母親の方は?」
「父親の虚に喰われた。最後に名無しも喰うつもりだったのじゃろうな。しかしそうはならんかった」
名無しが、殺したから。
正しくは名無しの斬魄刀が。
けれど見る限り彼女がそのような物を持っていた記憶はない。
斬魄刀以外で虚は殺せないというのに。
もう一度名無しの全体像を頭に浮かべたところで、ようやくギンが気づく。
「…吸ったんやね。ファイ君」
元柳斎は重厚な面持ちでうなずいた。
この世界が虚と新たな死神の力に気づき隊員にここへ連れて来させたとき、名無しの服は少量の血で染まり。
同じように白い顔を血で染めたピエロを連れていた。
その人形以外に名無しが虚を消滅させる手段は持っていない。
そうなればそこから導き出されるのは、残酷な結果だけでしかなかった。
「恐らく望んではいなかったじゃろう。自分の父親と知っていたなら喰われるつもりであったのじゃ、抵抗をした跡は残っとらん。しかし思いの外あの人形は、主である名無しを守ってしまった」
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