私は知らない間に熱烈な入隊届けを出していた。
そして受理されていた。
一瞬頭が真っ白になって、ファイ君が頬をペシペシ叩いてくれたおかげでようやく目が覚める。
「…おかしいとは思ってたけど、やっぱりか」
「うん、おかしい、や、おかしくない。あれ違うな、えっと…」
おかしくない、だって心の底では本当は、私はこれを夢見ていたはず。
夢見てそして、知らないうちに諦めてた。
誰かと一緒にいることを諦めてた。
だからおかしくない、これはきっと。
ああそうだ。
「嬉、しい」
気がついたら紙をぎゅっと握っていた。
頭の奥が熱くなって、視界が少しだけぼやけた。
そんな私にイヅルヤさんは苦笑しながら頭をポンポンと叩く。
「ほら、君は平隊員なんだから。仕事仕事」
「し、ごと。何?何すればいい?」
「最初の仕事はまず市丸隊長を起こしてきてくれないか。話はそれから詳しくしよう」
「うん!」
「目上の人には『はい』」
「あ、はい!イヅルヤ副隊長!」
「だから僕はイヅルヤじゃない、イヅル!」
「じゃあ間を取ってイヅ!」
「それは間とかの問題じゃない!あと副隊長まで消すことないじゃないか!」
「それじゃあ行ってきます!」
「ちょっとおお!?」
久しぶりに大きな声を出したら濡れていた視界が晴れていた。
一目散にギンさんの部屋へ駆け出す。
良い天気。
「ファイ君!私ギンさんと一緒にいられるよ!イヅもだよ!」
走りながらファイ君に話しかけると、ファイ君は聞こえている証にぎゅっと強く巻きついた。
それがまた嬉しくて、ギンさんの部屋に駆け上がった途端に布団へ超ダイブした。
「ギンさーん!」
「ぐあっ!」
ばっちりボディにきまってギンさんが少し悶える。
何の奇襲や、と呟きながら私の頭を手探りで撫でた。
「ギンさん朝だよ!イヅに仕事もらったよ!」
「えっらいテンション高いなあ…何の仕事やねん」
「ギンさんを起こしてくる仕事!」
「あちゃー…」
布団をかぶってしまったギンさんに入隊届けのことを聞くと、「僕はそんなの知らんよ」とだけ返ってきた。
だからそれ以上は言わなかったけど、それは全部分かってたからだ。
私はギンさんが好きだ。
大きくてゆっくりで、意地悪だけど本当は暖かい。
きっともう大好きだ。
私はこの日からギンさんに全部を貰ったと思う。
いつか、ギンさんの持っていないものを何か一つでも恩返しとしてあげたいと思う。
それが何かはまだ分からないけれど。
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