「けど、名無しは早ないわ。少し遅すぎるくらいやな」

「そうかな」

「そうや。たぶん僕、そう言う子が近くに欲しかったんやろ。それに僕は昔からよう拾うんや、君みたいな子」




どこか他人事のようにそう言って、ギンさんはひょうひょうと橋を渡って行った。
私もギンさんの言ったことを深くは考えないでそのままいつもの散歩に戻った。

こんな私だけど、あまり役に立たないけど。

ギンさんが言うなら出来る限りゆっくり歩いて生きるようにしてみるよ。


そう伝えたらギンさんは何て返事をするのかな、とか考えた。






いつもはそのまま一緒に隊室まで帰るけど、その日は違っていて。
ギンさんがふらりと離れた。



「僕は用事があるから、名無しはこのまま部屋に戻り。そんでまた明日おいで」

「ギンさんはお仕事?」



そうやなあ、と呟いて私の頭を少し撫でた。



「ちょっと総隊長とお話しにな」
















そんな別れ方をした次の日。
朝起きると珍しくファイ君が持ち去られていなかった。
けれど初めてちゃんと隊室に来るように言われたから、いつもより早く部屋を出る。


普通の隊員は出隊時刻とか言うらしいこの時間、仕事部屋にいたのはイヅルヤさんだけだった。




「ああお早う名無し、やっと来たね」

「お早うイヅルヤさん、ギンさんは?」

「だからイヅルヤじゃ…。市丸隊長はいつも寝坊だよ、そして君もギリギリだ」

「ぎりぎり?」



そう、と言いながらイヅルヤさんは入り口に立っていた私にもっと奥まで入るよう促し、手にポンと判子を置いた。

いつも見る三番隊用の判子。




「初出隊はもっと余裕を持って来ないとね。一応君の隊服着用は義務じゃないようにしたから、それから顔合わせについてだけどー」

「ちょ、待って待って、え?」



黙々と話し続けるイヅルヤさんを何とか制した。
不思議そうにこちらを見られたけれど不思議なのは私の方で、そのまんまの顔をしていたらすぐに悟られた。





「…もしかして君、知らないの?」

「何が?」

「これ」



ぴら、と手渡された一枚の紙。
入隊届けと銘打たれている。





「えーと…『わたくしは三番隊の隊長の真摯な姿に心引かれ、自分もこのような存在になりたいと熱く志願するため三番隊の入隊を希望します。名無しの名無し』

『許可する。山本元柳斎重國』」






「…………」

「…………」

「……え、えええええ!?」


 

[ 28/38 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -