「いいなーいいなー。人間っていーいーなー」
耳に残っている現世の歌を口ずさんで、続きが分からなかったからファイ君に聞いたけれど首を横に振るだけだった。
ファイ君が喋れたら良いのに。
そう思いながらその部分しか歌えない歌を何回も歌って、ずっと街を見下ろしていた。
泣いているのには気づかないフリをした。
寂しかった。
寂しくて寂しくて仕方なかった。
帰る場所も本当の名前も、昔のことも今のことも何も分からなくて。
本当は大きな声で泣きたくてたまらなかった。
ファイ君が涙を拭おうとしてくれるけど服の生地が水分を弾いてしまうからそれは叶わない。
ごめんねファイ君。
心配かけてごめんね。
ごしごしと目を拭いて顔を上げた所には、今までと変わらない街並みがあった。
一陣大きな風が桜の花びらを舞い上げて空に映ったその絵が、また涙が溢れそうなくらいに綺麗だった。
そして気がつくと。
「あ、」
頭からまっ逆さまに落下していた。
「…えーと…」
突然場面が変わったことに戸惑うのに一秒。
もしかしたらさっきの風で足を滑らせたかも知れないと気づくのに一秒。
そして更にもしかしたら自分はこのまま落ちて死ぬのかも知れないと気づくのに一秒。
結果。
「…いやだああああああ!」
絶叫するまでに三秒かかった。
けれど三秒も落ちればもうすぐそこまで地面は近づいてきていて、何の抵抗も出来ずに私は死―…
ドスウッ!
「ぐはあっ!」
……死ななかった。
何だか意外と柔らかい衝撃と低い声の悲鳴が聞こえてきて、少し打ち身はしたけれど大きな痛みは来なかった。
生きているらしいことに気づいて固くつむっていた目をそっと開けてみると。
大きな銀髪の人が立っていた。
狐みたいな人だった。
「…はろー」
「はろー」
あ、返してくれた。
良い人だ。
その人はしばらく私を見て、やがて目をゴシゴシこすってまた見た。
ん?と首を傾げて考えている。
「空から女の子が降ってくるっちゅう話があったよなあ…」と呟きながら。
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