「どこかの隊に属した方が慣れるのが早いじゃろう」
おじいちゃんはそう言ってくれたけど、私は紹介されたどの隊長さんとも仲良くなることが出来なかった。
ひどく暴れたりしたわけでもないし、嘘もついていない。
いつもの私を見せただけなのに、おじいちゃんが勧めたたくさんの人達は皆いなくなってしまった。
「お主は協調性がないのかのう…」
「きょーちょーせー?」
「皆と同じく物事を行うことじゃ。周りに合わせてな」
それはとてもとても難しい。
私はファイ君と離れたくなかったし、現世から着てきた黒い服も脱ぎたくなかった。
それを無くせば今度こそ私は人間だった頃のことを思い出そうとすらしなくなりそうで。
でもそれは、元柳斎おじいちゃんの言うきょーちょーせーにはどう頑張ってもなれないものだったから。
私はまたしばらくファイ君と二人きりになることになった。
それから何事もない日が続いた。
相変わらず隊長さん達とは仲良くなれないし、きょーちょーせーもどう作れば良いのか分からなくて、建物内をブラブラと散歩するのが日課だった。
私の格好はこの世界でかなり浮いたものらしいから誰かとすれ違った時はよく振り向かれた。
暑い日はファイ君と涼しい場所を探した。
寒い日はファイ君とずっと火鉢の近くにいた。
あっという間に私が連れてこられた春へ季節が回った。
変わっていないのは私たち二人だけだった。
「桜が綺麗だねえ、見に行こうかファイ君」
ファイ君がOK!と言う感じで手を振ったから、瀞霊廷の端にある桜並木に散歩に出かけた。
満開の桜の木の中で一番綺麗だと思ったのを選んで登ると、瀞霊壁の向こうに並ぶ小さなたくさんの家々が見えた。
死神が住んでいるここよりも外に、たくさんの人間だった人達が生活していると聞いたことがある。
廷外に出ることは許されなかったから時々こうやって高い場所に登ってその街を眺めていた。
狭い家と家の間の道を何人かの子供たちが楽しそうに走っている姿が見えた。
川で魚を捕っている人達の姿が見えた。
あの人達は薄暗くなって寂しくなったら、きっと家に帰るんだろうな。
自分の家があって、待っている人がいるんだろうな。
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