ピッ


「はい、もしも―」

『やっほーイヅ元気!?私とギンさんは今日も元気だよー!』










…こういうことだ。





「名無し、電話をする時間は前に決めただろ。集会中に鳴ったらどうする気さ」

『集会中に電源切っとかないイヅが悪いんでーす』

「適切な解答ありがとう。何?まだこっちの情報足りないのか?」

『ううん、今日はただの雑談ー』




相変わらずの明るい声にまたため息が出る。
嫌じゃないけど。











「でもちょっと声小さめにした方が良いよ。瀞霊廷にはバレてないけど、君がいるのは虚圏なんだから」










つまり、僕は名無しと市丸隊長にまんまと騙されていたんだ。
僕が市丸隊長の指示にきちんと従うように、しおらしい台詞まで聞かされて。





「大体そういう計画なら最初から僕にも教えてくれてもいいじゃないか…!」

『そういう計画ってのはー…イヅをこっちに情報流してくれる役として一人瀞霊廷に残して、全部終わった後でイヅもこっちに来る計画?』

「説明口調ありがとう」



そう、名無しは元から市丸隊長のやることなんて全部知ってた。
そりゃそうだよ仲間だったんだから。

もちろんその仲間には僕も混ぜられていて、どうやら僕は栄えある瀞霊廷へのスパイに抜擢されたらしい。
会議や集会で決まったことを藍染隊長の元にいる市丸隊長や名無しに流す役割だ。




『だってイヅ何かを隠すの下手だから最後の方に教えようかってなってたんだもん。あ、ギンさんバトンタッチー』



いや、そりゃそうかもしれないけどさ…と言いかけたところで上手くかわされた。
ちくしょう。





『イヅル元気かー?』

「市丸隊長…その子に電話の回数控えさせるように言って下さい。日に五回ですよ」

『ええやん、イヅルは寂しがりやからって名無しが心配しとるんや。せや、藍染さんがはよ吉良君もこっちに来てほしい言うて泣いてたわ。僕と名無し止められんから』


「…でしょうね。僕は最近仕事よりつっこみが評価されてるんじゃないかって思えてきましたよ」








僕がこの計画を教えられたのは市丸隊長が最後に立ち去る直前。
聞いたときは確かに驚いたけど、また柄にもなく。











また三人でいられるんだって。



思ってしまったんだ。












「結局名無しも連れていくんなら日にち開けていなくならせることなかったじゃないですか。おかげで『名無しの名無しはショックで失踪した』ってことになってるんですよ」


『せやかてそう思わせんと。僕も名無しも藍染さん側ってバレたらイヅルも疑われるやろ?』



そうなったらスパイどころやないやん。
と電話の向こうでにったり笑っている狐顔が目に浮かんでくる。



『そんなら変わるわ。名無しー、タッチ』



はーいと声がして電話が名無しに戻った。
市丸隊長よりも何よりも人を騙せるかもしれない彼女に。





(ギンさんが遠くへ行ったら、イヅはここに残って副隊長を続ける。私はショックでどこかへ消えて存在自体なかったことにされる)









実際名無しが言った通りになっていることが恐ろしい。
失踪者として彼女の名前は死神の名簿から削除された。




 

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