よくよく考えれば、市丸隊長は今頃何をやっているんだろう。
悪どいこと…なんだろうな。
「ねえ、名無しも市丸隊長がどっか遠くへ行ってしまう気がするんだろう?」
「するよ」
「どれくらい遠いと思う?」
「もう戻ってこられないくらい遠いところだと思う」
だよね、と壁に寄りかかって座ると、名無しは膝とファイ君を抱き抱えて鉄格子の細い隙間から見える部屋の入り口を見つめていた。
何となく、だけど。
名無しはもしかしたら、寂しかったのかな。
なんて、時々名無しが見せる深い瞳の色にそう思う。
今市丸隊長は自分のやることをやりに行っていて、僕は牢に閉じ込められて。
また、彼女は一人だ。
広い瀞霊廷内でファイ君とたった二人ぼっちで、行く場所もいる場所も隣にいられる人もいないと言うのは、どれだけ苦しいんだろう。
それでも市丸隊長がやることを何一つ止めないのは、本当に。
「はあ…あとどれだけ閉じ込められるのかな。知ってた?ここって食べ物も水ももらえないんだよ」
「うっそ、死んじゃうじゃん」
「うん。だから暴れてここから出せー!とかやるのは得策じゃないらしい。体力が減るだけで」
「じゃあさ、体力をとっておくために呼ぶ名前短縮しようよ」
「秒単位の短縮だね…良いよ、どんなの?」
「じゃあ私ジェニファー」
「長くなってない?」
「んでイヅがマイケルとか」
「…君はもう好きに生きたら良い」
「ひどいわマイケル」
「夫婦口調やめて」
何で短縮って言ったのに長くなるかな、だいたい名無しの中にジェニファーっぽさなんてこれっぽっちもないよ。
桜の木にジョセフィーヌってつけたり、何?欧米思考?
僕はまだ人様のつっこみをパクりたくはないんだけど。
こんな感じでふざけた会話をしていたら、なぜだか時間は早く過ぎていくもので。
一・二時間は経ったかな、時計がないから分からない。
「本当に名無しが前言った通りになるのかな」
「前言ったこと?」
「市丸隊長が遠くへ行って、僕はこのままで、名無しはショックでどこかへ消えるって言う終わり」
そう言うと、ああそれねーといたって軽い口調で答えた名無し。
「なるでしょ」
「…何で分かるのさ」
「んー?んふふふふ」
にぱっと笑う隣の少女にハアアとため息をついた。
名無しが消えるとこんな笑顔も見れなくなるのかと思うと、柄になく少し寂しかったりしている僕。
市丸隊長が遠くに行くとあのにったり顔も見れなくなるのかと思うと、柄になく少し懐かしくなったりしている僕。
そう、柄にもなく。
三人でいるのって良いなとか、ようやく最近思え始めてきたのに。
思ってしまっていたのに。
そんなこと言ったら名無しに「ファイ君も!」とか言われて四人に直されそうだけど。
そうだね、ファイ君もだよ。
「……僕は、市丸隊長もここでは生きにくいだろうな、と思うんだよ」
「ギンさんも?」
「うん、何となくだけどね。そうじゃなかったら、あんな笑顔は要らないだろう」
うんうん、と真剣に頷く名無し。
僕と同じ事を考えていたらしい。
まあ、そんな事を言っていても僕らには何にも出来ないのだけど。
「…それより、ここから出られなかったら市丸隊長にお別れも言えないじゃないか」
「だいじょーぶだよ」
ファイ君の口をパクパクさせながら名無しが腹話術で言った。
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