「春だ!桜だ!お花見だー!!」
…どうしよう。
名無しが止まらない。
*名前はよく考えて付ける*
毎年のことなんだけど、春になると名無しは必ずはしゃぎだす。
珍しく僕に言われないうちに市丸隊長を叩き起こして、やっていたパズルも片付けて。
「吉良副隊長お願いがあります!」
「何だい名無しの隊員」
「お花見行きましょう!」
「…………」
これが僕の前で正座して言った一言。
名無し、コレなのか。
初めて礼儀正しく言った台詞がコレなのか。
ちょっとうなだれてる僕の頭を数回揺すってお願いをしてくる名無し。
いや、花見は良いんだよ…毎年のことだしさ。
けど未だにまともな敬語を話せない名無しがまともに「お願いがあります」とか言ったからちょっと嬉しかったんだよ。
けどそうかあ、その内容が花見かあ、ふーん。
「イヅ軽く傷付いたっしょ」
「傷付いてないし。全然傷付いてないし」
「吉良副隊長、職務中に不謹慎な提案だとは重々承知ですがここは骨休めにお花見でも行きましょう」
「今まで散々教えて使わなかった敬語をここでふんだんに使う君が大嫌いだ」
「絶対軽く傷付いたっしょー」
「傷付いてないしー」
ガラッ
何だかちょっと馬鹿みたいな会話をしていたところへ眠たそうな市丸隊長が入ってきた。
良く出隊時刻までに起こせたものだと思う。
「…隊長、今朝はどんな起こされ方したんですか」
「……名無しがファイ君の口開けて吸わせながらにじり寄ってきたんや」
それは怖い。
それでもくあ、と欠伸をしながら名無しの頭をポンポン撫でて。
「そんなら行く用意せな」
「あ、やっぱり行くんですか」
「たり前やろ」
「やったー!」
事も無げに了承した市丸隊長の発言で、名無しの望み通りお花見決行が決まった。
「はあ…分かりました。名無し、おやつは三百円までね」
「先生!バナナは「ベタすぎるから却下」
名無しは意外にもイベントごとにあまり参加しない。
現世から伝わってきた雛祭りや節分、ハロウィンやクリスマス。
廷内でも楽しそうにはしゃぐ隊員は少なくないのに、とんと名無しは興味がないらしい。
春には花見、秋には月見、夏と冬は何もしない。
現世生まれなんだから体が覚えていてもいいくらいなのに。
「さーくーらー!」
「名無し、あまり走るとファイ君が振りおとされるよ」
「はーい!」
忠告なんて聞かずにスピードを落とさないまま桜並木の中を走っていった。
「ええのは返事と元気だけやね」
「まあそうですけど…今日は名無し異常なほどはしゃいでませんか?」
「年に一度やしなあ」
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