短編 | ナノ






祭り囃子の音が聞こえる。

遠くなって近くなってまた遠くなる賑わいの音、人が奏でる音。
騒がしくもあり慌ただしくもあるその音を聞くとなぜか駆け出して行かなくちゃいけないような気がしてしょうがない。
流魂街のどこかでお祭りでもやっているんだろう。

良いなあ、何があるのかなあ。
血のように真っ赤な林檎飴も、誰かの肌のように真白な綿あめも、限りなく短い時の間で死んでしまう色とりどりの雛達も。
きっと見上げればどこまでも鮮やかな提灯が連なって、面白おかしい化粧をした人達が踊っていて…。



楽しいんだろうなあ…。



そんな珍しい行事の真っ只中で私は何をしているかと言うと、ただ自分の部屋で寝転んでいるだけなわけ。
隊舎の自室は二階だから窓から覗けば街なんて見えるのにそれをしないの。
だってあんな心迷わす有象無象を見れば行きたくなってしまう。

隊内の席官ともなってしまえば、非番の最中に祭りに行くだなんて面目が立たないにも程がある。
並の隊員なら堂々と非番にあの真っ赤な林檎飴を噛りに行けるんだろうに、嗚呼。

こんなことなら席官にならなきゃ良かっただなんて決して思わないけれど、非番に自室の畳の上で死んだように寝転んでいるために席官になった訳でもない。

散々赴くことの出来ない祭りへ向かって恨みを放出する前に(幸運なことに)祭り囃子は私を夢の中へ連れていってくれた。














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