本当に、一番大事な人とは、一緒にいられないんだねえ
すくい上げれば指の隙間から逃げ出すような足元の砂を、シャベルで掘り返しながらこの子は呟いた。
「なしてそう思うん?」
「わかんない」
永遠に朝のこない世界。
偽物の空だけが与えられた世界。
夜空を見上げる僕とは逆に、この子は一生懸命砂にシャベルを突き立てていた。
――地面は茶色い
どこから知り得たのかそんな事実を、彼女は確かめたいらしい。
普通地面は「土」というもので覆われていて、その上に砂があるというのなら、この広大な砂漠の下にも「土」とやらがあるのではないか。
そんな持論を、僕は笑い飛ばせなかった。
だってこの子は分かっている、僕とおんなじことを感じている。
ああこの世界は、どこもかしこもおかしいのだ。
――――――……
「名無しちゃーん」
「あ、市丸様ー」
今日も虚夜宮の外で作り物の木に触れているあの子を見つけた。
宮の中に入れば明るい青空が溢れているというのに、この子は大抵いつも外にいる。
千何百メートルだかまで掘り進めたシャベルはウルキオラに取り上げられ、穴もすっかり埋められたと聞いた。
かと思えば作り物の木に作り物の葉っぱを付けたりと、よく分からないことばかり繰り返す。
いや嘘だ。
僕にはよく分かる。
「今日もお散歩?」
「せやで。それとなあ、名無しちゃんにええもん持ってきたんや」
「うん?何?」
そら、とそこらへんに放っておいた額縁のような木の枠を取り出した。
中に薄い板がはまっていて、そこにうっすらと茶色い土が敷かれている。
それを受け取った名無しの瞳が静かに開かれた。
「これ……」
「現世に行った破面の子らにちょっと持ってきてもろたんや。あんまり多ないけど」
真剣な眼差しで受け取ったそれを砂上の地面におき、静かに表面の土に触れてみる。
何度かそれを繰り返したあとで、ゆっくりこちらを見上げた。
「土って冷たいんだね」
「おひさまの下やったらあったかいんやで、ここは日が当たらんからなあ」
「うん」
うなずきながらもその表面を指でなぞることをやめない。
そうしてうっすらとそこに文字が書けるだとか、薄いものなら埋められるだとかを発見して。
「市丸様ありがとう」
世にも不自然な状態の土を与えた僕に、満面の笑みでそう告げた。
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