短編 | ナノ






私が「もうじゅう使い」といういかにもなあだ名を付けられてどれくらい経っただろう。
別に狼や獅子を手なづけているわけじゃない、むしろ天性的に動物には好かれにくい体質にある。
にも関わらず私がこんなあだ名を付けられたのは、やはり「もうじゅう」に懐かれたから。

ただ動物でなないけれど。



「名無し、おはよーさん」



ズシッと後ろから全体重を乗せられ危ういところで壁にしがみつく。
悲鳴をあげている膝を何とか立たせながら崩れそうな体を支えた。



「挨拶してくれへんと寂しいわあ」

「お、はよう、ギン…」

「おはよーさん、一緒に隊室行こうなー」

「…よけて」

「嫌や」



この狐こそが狼や獅子も肉球で逃げ出す、私の「もうじゅう」だ。
理由は分からない。
私のどこか人と少し離れる性格が気に入られたのか、あまり口数の多くないところが好まれたのか、気づいたときには告白のようなものを受けていた。
首に刀を突きつけられながら。

我が身可愛さに承諾したときはこの隊長にどんな仕打ちを受けるのかと思いきや、関係が出来てしまうと全くそんなことはなかった。

ベッタベタ。
それはもうベッタベタ。
隊長の幼なじみにアドバイスを受けると、「あれは一旦懐くとどこまでも懐く性格」らしい。
知らなければ良かった。


そしてそのアドバイスは的確なようで、一声かけると仕事だろうが何だろうが一緒に着いてくるようになった隊長を見るとより確信が持てる。
ベストオブTHEサボり魔の隊長が素直に隊室に来るのは喜ばしいことのため、私達の関係はほとんど反対者無く受け入れられてしまった。

こうして私が「もうじゅう使い」のあだ名を付けられるのに至る。
「もうじゅう」は「猛獣」と「盲従」の意味があるらしい。





かくて今日も私は両肩の負担に耐えながら隊室まで歩みを進める。



「ギン、抱きつくのはまだしも体重はかけないでほしい…」

「せやかて名無し抱きしめても僕の方寄らんやろ。そんなら僕が近づくしかあらへんやん」

「毎日背骨が軋んできてる」

「背骨折れたら毎日僕が運んだるわ」

「離れるという選択肢は」

「あらへんなあ」



この時私に向けられるのはここでリタイアするか隊室まで耐えるかの二択。
背骨と隊長がリタイアすることを囁いているがそれは向こうの思うつぼ、嬉々として隊長室に連れ去られる罠。
聞こえるようにため息を吐いて、今日も何とか隊室までたどり着いた。








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