短編 | ナノ






人と目を合わせなくなったのはいつ頃からだったのか、もうずいぶん前からのような気がして思い出せなかった。
合わせようと思えば合わせられるものなのかも知れないがこの目の場合は色々と難しい。
向こうが合わそうとしてくれない。
目に赤色を持つと言うことか、生まれながらのこの目付きか、どちらが恐怖の対象になっているのかは分からないけれど。



(い、市丸隊長、おはようございます…)

(おはようさん)



隊員はまだ頭を下げる方法があるから少し楽に思える。
それでも隊長格と対峙したときにあからさまに視線を反らされるのは、キツい。
隊長格の前でこの目を見せたのは確かこの肩書きに着いたばかりで、まだ権限も弱い時だ。
ああおかしいなあ、見せろと言ったのはあいつらなのに。



「ギン?」

「ん?」



不意に隣に座っている君の呼びかけで意識が戻る、いたのは暖かい陽射しの入る自分の部屋だった。



「何や名無し。なした?」

「少し怖い顔をしていたから」



そう言われて内心慌てながら開いた目を戻しかけるけれど、隣にいるのが君だともう一度思い出してそれを止める。
ああそうだ。
ここなら大丈夫なんだ。



「怖い顔しとった?僕」

「してた」

「まだ目ぇ開くのに慣れとらんのかな」

「私はギンの表情が怖かったの。目が怖いなんて一言も言っていないのに」



またひねくれるんだから、と簡単に返された。
君の近くにいてこんなことまで言われてしまうと僕が出来るのは苦笑くらいしかない。

僕が目を開いた所を見せた時、視線を外さずにいてくれたのは名無しが初めてだった。
大勢の奴らが顔をしかめたこれを見て名無しは笑い、大勢の奴らが怖いと言ったこれを見て名無しは優しいと言った。

どうして目を開けないのかと聞かれたから、他の周りにいる奴らは君と同じようにこの目を扱ってくれないことを教えると泣いてしまったのも名無しだった。
君の目は透明な涙を流せるのが不思議なくらいに綺麗な黒色をしていた。


黒が赤を思って泣くことが何だかこれ以上なく不思議なことのように思えて、その時の僕は一瞬泣き止ませるのも忘れて見呆けていた。
それからいつも近くにいてくれるのが君で。
他には何もいらない気にさえなった。


けれど。







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