短編 | ナノ






「市丸隊長」



だから私はそのまま出ていこうとするその人をいつものように静かに呼び止めました。
そして世界で誰も言わないならと、私が言いました。



「行ってらっしゃい」



市丸隊長はそれを聞いて少しだけ驚いたように体を止めましたが、やがて小さく微笑んで部屋の入り口から消えていきました。
帰ってこないのですから返事はいりません。
別れが悲しくないのは冷たい証でしょうか、引き止めないのは愛のない証でしょうか。
そんなものではないと思います、私達のいる世界はもう少しくらい、複雑なものだと思います。

私は誰かと笑いあうことが出来ますし、愛を受けたらそれなりの気持ちを返すことも出来るでしょう。
この穏やかな日常のままに生きてそれだけで幸せを感じることが出来るでしょう。
けれどあなたがそうすることはきっと容易ではないはずです、私がここを捨てることが出来ないように。
そうあることに何の問題がありますか。
いいえありません。


心も空気も同じで、楽に生きられる場所がほんの少し違っていた。
ただそれだけなのですから。






ああとても温かい




(あなたが最後に浮かべた笑顔)

(幸せそうで 安心しました)








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