短編 | ナノ






連れていけないと言われたから、付いていきたいと言ったことはないと言い返した。
そんな言葉しかギンの心の憂さを、私を置いていく罪悪感と後悔を少しでも晴らすことは叶わないから。

本心の隠し方と作り笑顔はギンからきちんと教わった。
だから気づかなくていい。



「千羽鶴言うんは、人のために折るんやろ?」



近くにある赤い鶴を一羽手のひらに乗せて尋ねた、その通り千羽鶴は人のため。
相手の勝利、相手の成功、相手の回復、自身に向けての物ではない。
自分が叶えたい願いがあるなら鶴を折る前に出来ることがあるはず。
近くに座る私の頭を撫でながらギンはどこか哀愁のある面持ちで鶴を見る。別れの日が近づくにつれあの仮面のような顔が少しずつ変わっていくのを、私は毎日鶴の向こうに見る。



「僕のために折ってくれたりしとるん?」



その声が何だか初めて聞くような小さな声だったから、情けないような愛しいような、そんな気持ちになってしまって私も小さく笑って答えてあげた。



「まさか」





鶴を折る。
鶴を折りたくなるのはいつも夜中、全ての音が消えて自分の鼓動しか聞こえなくなった時。
昼間にギンがやって来てどこか崩れそうな笑顔や声を私に見せた時。
私はどうしようもなくなって鶴を折る。
連れて行ってなんて言わないここに残ってとも言わない、こうなることを教えられてもそれでもギンの思いを受けた、こうなる日が来ることを知っていて一緒にいた。
それなら私があの心を乱していい理由なんて何一つない。
だから鶴を折る。

自分に願うわけでもなくギンへ願うわけでもない、どうか、どうか次に生まれ変わる私という存在が再びあの人と出会えますように。
来世の自分のために千羽の鶴を掲げるなんて私はもう気が触れてしまったのだろうか、でもそれならどうすればいい、もうどうやっても戻らないこの時間は。
戻ることが出来なくなってしまった存在を愛した思いは、想いは。







戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -