「…何も、思わん」
そっと伸ばした手で触れたのは無機質で丈夫な窓で、確かいつもこの位置には名無しがいたんじゃなかったかとぼんやり思い出した。
だけどどれだけ触っても冷たくて固い、違う、名無しはこんなんじゃなかった。
僕に感情を教えてくれた名無しはもっと柔らかくて暖かかった。
君は僕の半身で僕は君の片割れだった、僕らは二人でいてようやく一人分の幸せを手に入れられた。
君がいたから僕は人らしくあれたのに。
僕がいたから君は人らしくあれたのに。
もう二度と自分の感情が分からなくなった僕と、もう二度と本当に笑いかける相手がいなくなった君と本当に哀れなのはどちらですか。
最後の最後まで自分の気持ちに気づけなかった僕と、僕の唯一の愛を信じられなかった君と本当に滑稽なのはどちらですか。
自分が離れることが僕の幸せだと思った君と、僕が離れることが君の幸せだと思った僕と、一体、どちらが。
ひ と り き り(自分の感情も分からないのに君の幸せを願った僕とあまりに壊れやすいのに僕の幸せを願った君)
(どうして悲しいほどに似てしまうのか)
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