「ん…」
夕闇迫る室内に直も響く笛の音。
ピーヒャラピーヒャラ ドンドコドン
鈍くはっきりしない後味を残して目が醒めたけど、変わっていたのは太陽の位置と色のみで。
流れる時間に逆らいながら祭りは賑やかさを増していた。
私の関係ないところであれらは動き続けていて、私がいなくなってもきっとこの祭りは終わりまで終わらないんだ。
そんな一人よがりな虚言が尽きる前に腰もとに違和感を感じて振り向いた。
綺麗な銀髪。
閉じた狐目。
腰に回された細くて長い腕。
どうして貴方がここにいるの、今日は貴方の好きな縁日の日でしょう。
なのに寝ている私に擦り寄る体からは金魚の匂いも芸者の匂いもしない。
首もとから聞こえる寝息の音にも何もかも祭りの気配が感じられない。
どうして行かなかったの、私は行かないって言ったじゃない。
一人で行っておいでって言ったじゃない、隊の人達はほとんど皆行くんだからって。
そうしたら貴方は笑ったじゃない。
まさか自分の部屋で寝転がってるなんて気付かなかったのかな、探したのかもね。
だって貴方の『三』と書かれた羽織が今日はやけに皺が多い。
私をしっかりと抱く両腕に私も両手を添えてから貴方の胸の方へ向き直った。
祭り囃子に背を向けて。
貴方の体に顔を埋めて、さあもう一度眠りましょうか二人きり、外の騒ぎはもう終わる。
今度はちゃんと手を繋いで縁日に行ってあげるから。
祭りの匂いがしない人が私だけにならないようにしてくれたんだね。
でもちょっとは寂しかったんでしょ。
一緒に、でも貴方と一緒ならお祭りなんて無くたって平気よ?
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