それから少しの間、走りすぎてうまく息が出来ない私の背中をずっとさすってくださいました。
「落ち着いたかしら?」
「はい…ありがとうございます」
宴会場から無事脱出し、入り口付近で体を休ませた私。
はー…と長い息を吐くと、不意に乱菊さんが。
「大変ねえ名無しの男恐怖症も。でも何で黙ってるの?皆に『私は男の人が怖いんです』って言っちゃえばいいじゃない」
確かにそうなんです。
私が一言言えば皆さんきっと近付かないでいてくれると思うのです。
それでも…
「でも、そうしたらあの人が…」
「あの人?」
―ポン
「名無しちゃんこないなとこにおったん?」
「あらギン」
「きゃあああああ!」
体が反応して思わず乱菊さんの後ろに逃げ込んでしまいました。
ふ、不意打ちすぎます…!
「ぼ、僕何かしたん?」
乱菊さんの背中ごしに聞こえるのはやっぱり市丸隊長の声。
戸惑わせてしまったようで胸が痛みます。
それでも顔を会わせるのが怖くて乱菊さんの背中にしがみついたまま。
「あららこないに隠れてしもて…僕名無しちゃんに嫌われとるんかなあ、乱菊」
「…ギン、あんたいつもさっきみたいに名無しの肩叩いて名前呼ぶの?」
「ん?せやで。いつも後ろから呼んどるし」
「肩に触って、名無しに投げられたり殴られたりしたことは?」
「あるわけないやろ」
それを聞いて、ははーん…と言う顔付きで私を振り返っている乱菊さん。
物凄く喜々としたものを浮かべています。
「僕は名無しちゃん好きやのに、どうしたらええんやろねえ」
「別に名無しはギンが嫌いなわけじゃないと思うわよ?」
「乱菊さん!」
真っ赤な顔で乱菊さんの背中を引っ張るとカラカラ笑われた。
「前途多難な恋してるわねぇ」
「僕がか?」
市丸隊長がそう尋ねるといきなり乱菊さんが背中にしがみついていた私を引っ張りだして。
「どっちもよ」
思いっきり市丸隊長の元へ突き飛ばした。
「ひゃっ!」
おっと、と市丸隊長が私を抱き止めて下さったときにはもう遅く。
しっかり隊長に触れることができている私と、触れられても平気な私がいた。
「あらー並ぶと良い感じじゃないの」
「乱菊さん…!」
「乱菊……こういう事は順序があるやろ」
「この子の場合、順序守ってると逆に意識しすぎるのよねー」
他の男性にひたすら怖い思いをさせられても話しかけてほしいと思うほど愛しい人の腕の中に入ることができたのは良い。
後はこの真っ赤な顔としがみついて離れそうにない手をどうするかが問題だ。
それから、抱きついた形になった私を離してくれない愛しい人と、後ろで笑いながら写真を撮ろうとしている乱菊さんをどうにかする方法も。
Fin.
(神様はあなただったんだ)
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