短編 | ナノ






ああああああああああああああああああああああああああ。
ヤバい死にそう。
市丸隊長の雰囲気に射殺されそう。
ラブ的表現じゃなくてもっとこう生命の危機みたいな。



「あの…隊長…」

「何や」



座布団で正座させられている私をよそに、何かの準備をせっせとする隊長。
分かってる、その準備は仕事でも任務のものでもないってことくらい。

だってそうですもの。
私はあなたのストレス解消用おもちゃですもの。



「…その穴の開いた箱は何ですか」

「お楽しみや、そこの着替えから帯一本持ってき」



帯?
よく分からなかったけど、逆らうものには死をなのでとりあえず従う。
市丸隊長の替えの羽織から一本帯を持ってきた。

やがて少し大きめの箱が私の目の前に置かれた。
腕一本入りそうな穴が空いている。



「帯かしや」



手渡すと、ギュッとそれで目隠しをされた。



「…え?」



視界が真っ暗になったのと同時に、市丸隊長が私の右腕を掴む。
嫌な予感が…最高潮に達しているんですけど。



「そこに木箱あるやろ」




暗闇の中で隊長の声が聞こえる。
導かれるままに右腕が箱に触れた。



「あり…ます」

「手ぇ入れてみ」

「えっ!?」



え、入れるってあの木箱に空いてた穴ですか?
まさかこれって罰ゲームとかに良くある…



「さーて中身は一体何やろなあ?」



やっぱりだー!!『箱の中身は何でしょうゲーム』だあああ!
ええええあの市丸隊長が用意した箱の中に手を入れろと!?

しまった副隊長!あなたが用意するのは胃薬じゃなくて墓石だ!




「えっ…な、何が入ってるんですか!?」

「それ言ったら意味ないやん。当たったら仕事部屋戻ってもええで」

「…マジですか」

「マジや」



本音は絶対拒否したい。
『あの』市丸隊長が用意したびっくりボックスに並大抵の物が入れられるとは思えない。
けど、賞品が魅力的だ。

当たったら仕事部屋に戻れる。
今までたった一回の『お楽しみ』で解放されたことはないから、前代未聞だ。
…つまり。



市丸隊長は相当中身に自信があると言うことですか。



でも…どっちにしろ手を入れないと更に機嫌が悪くなられるから…。



「かっ噛んだりしない?噛んだりしない?」

「噛みはせえへんよ。ほないってみよかー」

「うう……」



見えないけどやけに声が楽しそうだ。
怖い、怖いけど、覚悟を決めてえいっと手をつっこんだ。



ヌルウッ



「ぎにゃああああああああぁぁ!ヌルって!ヌルってしたあ!」

「十秒は触りやー。いーち、にーい…」

「隊長の鬼!なん、何で足がこんなにあるの!?…って隊長『はーち』から『いーち』に戻ってるってちょっとお!」



その後三回くらい八から一への巻き戻しを繰り返された。



「じゅーう」


その言葉を聞いた途端に光の速さで箱から手を引き抜いた。
直ぐ様目隠しを外して引っこ抜いた手を確かめたけど、なぜか濡れていない。
あんなにヌルヌルしてたのに…。



「さて、何や?」

「分からないですって…っクラゲカエルナメクジアメーバ!」

「全部はずれやなー」



うう…理解するのを拒否している頭を振り絞って言ったのに。



「…え?」



じゃあ、何?コレ。



「隊長…答えは?」

「………」

「えええ何で押し黙るんですかっ!?何か言ってくださいよ怖いじゃないですか!」



ガクガク揺さぶると、怖がらせるのを楽しむようにクツクツ笑って。



「とても僕の口からは…」

「隊長のアホー!」



泣きながら半狂乱で叫んだけど結局答えは教えてくれなかった。








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